
アルカリ土類金属とその化合物
アルカリ土類金属(Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Ra)の単体
① 2族元素をアルカリ土類金属といい, アルカリ金属に近い性質をもつ.
② イオン化傾向が大きく, 単体は塩化物の溶融塩電解で得る.
③ Be以外は水と反応して, 水素を発生し, 水酸化物となる.
例 Ca + 2H₂O → Ca(OH)₂ + H₂↑
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2族元素 Be Mg Ca Sr Ba
炎色反応 なし なし 橙 深赤 緑
水との反応 しない 熱水と反応(H₂発生) 常温で反応(H₂発生)
水酸化物 Be(OH)₂↓, Mg(OH)₂↓ は水に難溶(沈殿)
Ca(OH)₂, Sr(OH)₂, Ba(OH)₂ は水に溶けて強塩基性
硫酸塩 BeSO₄, MgSO₄ は水に溶ける
CaSO₄↓, SrSO₄↓, BaSO₄↓ は水に難溶(沈殿)
炭酸塩 BeCO₃↓, MgCO₃↓, CaCO₃↓, SrCO₃↓, BaCO₃↓ はすべて難溶(沈殿)
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Be, Mg と Ca, Sr, Ba, Ra で性質が大きく異なる点が重要である.
以前の高校化学では, 後者のグループのみをアルカリ土類金属としていた.
金属の中では反応性は高いほうだが, アルカリ金属よりは低い.
金属の中では密度が小さい(Ra以外は軽金属)ほうだが, アルカリ金属よりは大きい.
金属の中では柔らかいほうだが, アルカリ金属よりは硬い.
金属の中では融点は低いほうだが, アルカリ金属よりは高い.
アルカリ金属に比べ, 2族元素は原子核の正電荷が多く, 電子殻を強く引きつける.
すると, 原子半径が小さくなり, 密度は大きくなる.
自由電子の数も多く, 電子密度が高くなるため, 金属結合が強くなり, 硬さ・融点が大きくなる.
アルカリ金属の塩はすべて水に可溶である(アルカリ金属イオンは沈殿しない).
一方で, アルカリ土類金属の2価以上の陰イオンとの塩は水に難溶のものが多い.
これは, 価数が増えた分だけ強くなったクーロン力が水和エネルギーに勝るためである.
CaCO₃ と CaSO₄ は, いずれも白色沈殿で, 一見では識別できない.
CaCO₃ のほうは弱酸由来の塩なので, 強酸を加えると CO₂ が遊離する(弱酸の遊離).
CaCO₃ + 2HCl → CaCl₂ + CO₂ + H₂O
ただし, 表面に水に難溶の CaSO₄·2H₂O が生じるので, H₂SO₄ には溶けにくい.
Ca は骨や歯の成分元素である.
Mg は燃焼熱が大きく, 空気中で強熱すると白煙と強い光を出して燃焼する.
2Mg + O₂ → 2MgO (花火や導火線に利用)
二酸化炭素中でも光や熱を発しながら燃焼する(二酸化炭素を還元). 2Mg + CO₂ →(加熱) 2MgO + C
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カルシウム Ca の化合物
石灰石 →(熱分解)→ 生石灰 →(H₂O)→ 消石灰 →(CO₂)→ 石灰石 ⇄(過剰CO₂, 加熱)⇄ Ca(HCO₃)₂
① 石灰石(大理石) CaCO₃ を強熱して分解すると, 生石灰 CaO が生成する.
CaCO₃ →(加熱) CaO + CO₂ (「塩基性酸化物+酸性酸化物 → 塩」の逆)
② 生石灰 CaO に水を加えると, 激しく発熱して消石灰 Ca(OH)₂ が生成する.
CaO + H₂O → Ca(OH)₂ ΔH=-63kJ (塩基性酸化物+水 → 水酸化物)
③ 石灰水(消石灰 Ca(OH)₂ 水溶液)に CO₂ を吹き込むと CaCO₃ が沈殿して白濁する.
Ca(OH)₂ + CO₂ → CaCO₃↓ + H₂O (塩基+酸性酸化物 → 塩+水)
この反応は二酸化炭素の検出に利用される.
④ 過剰の CO₂ を吹き込むと, 炭酸水素カルシウムとなり, 再び溶解する.
加熱すると逆反応が起こり, 白濁に戻る.
CaCO₃ + CO₂ + H₂O ⇄(過剰CO₂, 加熱) Ca(HCO₃)₂
⑤ 生石灰 CaO とコークス C を強熱すると, カーバイド CaC₂ が生成する.
CaO + 3C →(強熱) CaC₂ + CO
⑥ カーバイドに水を加えると, 消石灰とアセチレンが生成する(無機物 → 有機物).
CaC₂ + 2H₂O → Ca(OH)₂ + C₂H₂↑
⑦ セッコウ CaSO₄·2H₂O を加熱すると, 焼きセッコウ(液体状)になる.
CaSO₄·2H₂O ⇄(加熱, 放置で硬化) CaSO₄·½H₂O
⑧ 湿った消石灰 Ca(OH)₂ は塩素を吸収し, さらし粉を生成する.
Ca(OH)₂ + Cl₂ → CaCl(ClO)·H₂O
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① アルカリ金属以外の炭酸塩は熱分解する. 炭酸塩 →(加熱) 酸化物 + CO₂
② アルカリ金属以外の水酸化物は加熱すると逆反応が起こる. 水酸化物 →(加熱) 酸化物 + H₂O
④ 反応の根幹は CO₃²⁻ + H₂CO₃ → HCO₃⁻ である.
炭酸は H₂CO₃ → H⁺ + HCO₃⁻ (第1電離)が起こりやすい.
一方で HCO₃⁻ → H⁺ + CO₃²⁻ (第2電離)は起こりにくい.
よって, H₂CO₃ から1個の H⁺ が CO₃²⁻ に受け渡されて安定するわけである.
CO₃²⁻ から HCO₃⁻ に価数が小さくなると, Ca²⁺ とのクーロン力が弱くなり, 水に可溶になる.
加熱すると, 反応系から CO₂ が追い出され, 逆方向に平衡が移動する(ルシャトリエの原理).
すべての炭酸水素塩は熱分解する. 炭酸水素塩 →(加熱) 炭酸塩 + CO₂ + H₂O
CO₂ を含む雨水が地層中の CaCO₃ を溶かすことで, 鍾乳洞が形成される.
Ca(HCO₃)₂ を含む水が鍾乳洞の天井からにじみでるとき, CO₂ や H₂O の蒸発で逆反応が起こる.
すると, CaCO₃ が析出してつらら状の鍾乳石ができる(1cm 成長するのに数百~数千年).
⑤ 3個のC(酸化数0)のうちの1個のCから他の2つのCにe⁻が1個ずつ(計2個)移動する.
すると, C, C, C → C(+2), C(−1), C(−1) となる. つまり, CO(+2) + CaC₂(−1) となる.
これは, 炭素の自己酸化還元反応である.
炭化物の総称をカーバイドというが, カルシウムカーバイドのことを指すことが多い.
⑥ 無機物と有機物アセチレンの架け橋となる重要な反応である.
アセチレンを C₂²⁻ と H⁺ に電離する極めて弱い酸と考えると, 弱酸の遊離反応とみなせる.
⑧ さらし粉が生成する反応式は次のようにして得られるが, 複雑なので暗記しておきたい.
Cl₂ + H₂O ⇄ HCl + HClO
2HCl + Ca(OH)₂ → CaCl₂ + 2H₂O
2HClO + Ca(OH)₂ → Ca(ClO)₂ + 2H₂O
2Ca(OH)₂ + 2Cl₂ → CaCl₂ + Ca(ClO)₂ + 2H₂O
右辺の化合物は 2CaCl(ClO)·H₂O にまとめられ, 両辺を2で割ると⑧の反応式となる.
さらし粉は, CaCl₂ と次亜塩素酸カルシウム Ca(ClO)₂ の2つの塩からなる複塩である.
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2族元素の化合物の性質と用途
MgCl₂:海水に含まれ, 潮解性のある無色結晶. にがりの主成分.
MgO:融点が高く(2826℃), 耐火レンガに利用.
CaCO₃:大理石, 鍾乳石. 卵殻, 貝殻. セメント・ガラスの原料, チョーク, 歯磨き粉.
CaO:塩基性乾燥剤, 携帯用食品に付属する発熱剤として利用.
Ca(OH)₂:酸性土壌の中和剤, さらし粉の製造.
CaCl₂:吸湿性・潮解性あり. 中性の乾燥剤, 融雪剤として利用.
BaSO₄:白色顔料, X線の造影剤(バリウム検査)として利用.
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BaSO₄ は, X線の吸収能が大きく, 熱や光に対し安定で, 水に不溶で胃酸(強酸)とも反応しない.
反応性が低いので人体に影響はなく, 飲んだ後にX線で撮影するとX線が吸収されて写る.
なお, 胃がん検診においてバリウム検査は欠点が多く意味がないので, 内視鏡検査が推奨される.
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