
アルカリ金属とその化合物
アルカリ金属(Li, Na, K, Rb, Cs)の単体
① H以外の1族元素をアルカリ金属という.
反応性が非常に高く, 天然には単体として存在しない.
② 塩化物の溶融塩電解(水で薄めずに塩を直接電気分解すること)によって得られる.
③ 柔らかく, 密度は小さい(軽金属). Li, Na, Kは水に浮く(1.0 g/cm³以下).
④ 単体の融点は, 原子番号が小さいほど高い. Li > Na > K > Rb > Cs
⑤ 常温の水と激しく反応して, 水素を発生し, 強塩基水溶液が生成する.
例 2Na + 2H₂O → 2NaOH + H₂↑ (酸化還元反応)
⑥ 水と反応し, 空気中ですぐに酸化され光沢が消えるため, 石油中に保存(Liのみ浮く).
⑦ 炎色反応のゴロ合わせ
Li(赤), Na(黄), K(赤紫), Cu(緑), Ca(橙), Sr(紅), Ba(緑)
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① 原子番号が大きいほど原子半径が大きく, 原子核と価電子との電気的引力が弱くなる.
すると, 価電子が放出されやすくなり, 反応性が高くなる.
つまり, 原子番号が大きいほど, イオン化エネルギーが小さくなる(陽イオンになりやすい).
② イオン化傾向が大きすぎて, 水溶液を電気分解すると先に水が還元されて水素になってしまう.
そこで, 塩そのものを直接電気分解することでしか単体を得ることができない(溶融塩電解).
③ どの族も原子番号が大きいほど密度が大きくなる傾向があるが,
密度は原子量の増加割合と原子半径の増加割合の兼ね合いで決まるので絶対ではない.
密度 ³Li < ₁₉K < ₁₁Na < ₃₇Rb < ₅₅Cs (すべて体心立方格子)
④ 原子番号が大きいほど原子半径が大きく, 単位体積当たりの自由電子の数が少なくなる.
すると, 金属結合が弱くなり, 融点が低くなる.
⑤ (酸化剤) 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻ (還元剤) Na → Na⁺ + e⁻
アルカリ金属は塩素とも反応する. 例 2Na + Cl₂ → 2NaCl
⑦ 炎色反応の操作 白金線につけた試料水溶液をガスバーナーの外炎に入れる.
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水酸化ナトリウム NaOH と 水酸化カリウム KOH
NaOHの製法 NaCl水溶液を電気分解(イオン交換膜法).
2NaCl + 2H₂O → 2NaOH + H₂↑ + Cl₂↑
共通性質
① 白色の固体で, 水に溶けて強塩基性を示し, 皮膚や粘膜を激しく侵す.
② 潮解性(空気中の水分を吸収して溶ける)がある.
③ 二酸化炭素をよく吸収し, 炭酸塩を形成する.
2NaOH + CO₂ → Na₂CO₃ + H₂O (塩基+酸性酸化物 → 塩+水)
さらに二酸化炭素を吸収させると, 炭酸水素塩を生成する.
Na₂CO₃ + H₂O + CO₂ → 2NaHCO₃
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NaOH, KOH, MgCl₂, CaCl₂, FeCl₃ などが潮解性を示す.
イオン結合が比較的弱い物質は, 水分子が割り込みやすい. また, OH⁻ は水分子との親和性が大きい.
炭酸水素塩が生成する反応式の根幹は, CO₃²⁻ + H₂CO₃ → 2HCO₃⁻ である.
炭酸は H₂CO₃ → H⁺ + HCO₃⁻ (第1電離)が起こりやすい.
一方で HCO₃⁻ → H⁺ + CO₃²⁻ (第2電離)は起こりにくい.
よって, H₂CO₃ から1個の H⁺ が CO₃²⁻ に受け渡されて安定するわけである.
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炭酸ナトリウム Na₂CO₃ と 炭酸水素ナトリウム NaHCO₃
Na₂CO₃ NaHCO₃
水に よく溶けて塩基性 少し溶けて弱塩基性
CO₃²⁻ + H₂O ⇄ HCO₃⁻ + OH⁻ HCO₃⁻ + H₂O ⇄ H₂CO₃ + OH⁻
加熱 変化なし CO₂を出してNa₂CO₃
塩酸 炭酸塩+強酸で弱酸CO₂発生(弱酸の遊離)
Na₂CO₃ + 2HCl → 2NaCl + H₂O + CO₂↑
NaHCO₃ + HCl → NaCl + H₂O + CO₂↑
性質 無色結晶の Na₂CO₃·10H₂O は, 風解性(結晶が自然に水和水を失う)をもつ.
空気中に放置すると, 自然に水和水を失い, Na₂CO₃·H₂O の白色粉末になる.
用途 Na₂CO₃:ガラスの原料や洗剤.
NaHCO₃:重曹とも呼ばれ, ベーキングパウダーや胃腸薬.
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NaHCO₃ を加熱すると, 2NaHCO₃ → Na₂CO₃ + H₂O + CO₂ が起こる.
これは Na₂CO₃ に CO₂ を過剰に吸収させたときの逆反応である.
加熱により CO₂ が反応系から追い出されることで, 反応が進行する.
イオン化傾向が大きい Na の化合物は基本的に水によく溶けるが, NaHCO₃ のみ沈殿する.
また, NaHCO₃ は弱塩基性を示すから, 胃酸を中和できる.
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炭酸ナトリウム Na₂CO₃ の工業的製法(アンモニアソーダ(ソルベー)法)
① 主反応 NaCl + NH₃ + CO₂ + H₂O → NH₄Cl + NaHCO₃↓
② 主反応 2NaHCO₃ →(加熱) Na₂CO₃ + H₂O + CO₂
③ 副反応 CaCO₃ →(加熱) CaO + CO₂
④ 副反応 CaO + H₂O → Ca(OH)₂
⑤ 副反応 2NH₄Cl + Ca(OH)₂ → CaCl₂ + 2NH₃ + 2H₂O
合体式 CaCO₃ + 2NaCl → Na₂CO₃ + CaCl₂
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合体式の反応を起こし, 炭酸ナトリウム Na₂CO₃ を得ることが目標である.
しかし, 合体式の中では沈殿するのが CaCO₃ であるから, 自然にはむしろ左向きに反応が進行する.
そこで, アンモニアを介在させた複雑な過程を経て Na₂CO₃ (ソーダ灰) を製造することになる.
① 飽和食塩水にまずアンモニアを飽和させ, 次に二酸化炭素を通じる.
NH₃ を先に吹き込むことで溶液を塩基性になり, 酸性気体の CO₂ が溶けやすくなる.
この反応で NaCl, NaHCO₃, NH₄Cl, NH₄HCO₃ の4通りの化合物ができる可能性がある.
この4つのうち最も溶解度が小さい NaHCO₃ が沈殿することで反応が右に進行する.
② ①で得られた NaHCO₃ を加熱分解して Na₂CO₃ が得られる.
同時に生成される CO₂ は①で再利用する.
③ ②から回収される CO₂ の不足分は, 石灰石 CaCO₃ を熱分解して補う.
(「塩基性酸化物+酸性酸化物 → 塩」の逆反応)
④ 「塩基性酸化物+水 → 水酸化物」で, ③で得た CaO を Ca(OH)₂ にする.
⑤ ①の NH₄Cl と ④の Ca(OH)₂ から弱塩基の遊離反応で NH₃ を得て, ①で再利用する.
この反応で①で使用する NH₃ の全量を回収できる. つまり NH₃ は理論上消費されていない.
①×2 + ② + ③ + ④ により, 合体反応式が得られる(暗記推奨).
Na₂CO₃ と同時に得られる CaCl₂ は, 乾燥剤, 融雪剤として利用される.
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アンモニアソーダ法で炭酸ナトリウムを106 kg得るには, 何 kg の塩化ナトリウムが必要か.
ただし NaCl = 58.5, Na₂CO₃ = 106 とする.
合体反応式は CaCO₃ + 2NaCl → Na₂CO₃ + CaCl₂
よって, 1 mol の Na₂CO₃ を得るには, 2 mol の NaCl が必要である.
ここで Na₂CO₃ 106 kg は 106000 g / 106 g/mol = 1000 mol である.
ゆえに 2000 mol の NaCl が必要である.
∴ 必要な NaCl の質量は 58.5 g/mol × 2000 mol = 117000 g = 117 kg
