
熱硬化性樹脂
合成樹脂 樹脂状の合成高分子化合物で, 希望の形に成型できる性質(塑性)をもつ.
高密度の結晶部分と低密度の無定形部分からなり, 結晶部分が多いほど硬い.
合成樹脂は, 熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に大別される.
Plastic(可塑性の)に由来し, プラスチックとも呼ばれる.
熱可塑性樹脂 加熱すると軟らかくなり, 冷却すると硬化する性質をもつ合成樹脂.
加熱で軟らかくしてから型に入れ, 冷却することで自由に成形加工できる.
付加重合のものが多く, 一般に鎖状高分子化合物が該当する.
熱硬化性樹脂 加熱すると硬化する性質をもつ合成樹脂.
熱可塑性のある重合度の低い段階(プレポリマー)で成形する必要がある.
熱可塑性樹脂よりも耐熱性や耐薬品性に優れている.
縮合重合のものが多く, 一般に三次元網目状構造の高分子化合物が該当する.
代表的な熱硬化性樹脂
① フェノール樹脂(PF)(ベークライト)
フェノール
+
ホルムアルデヒド
酸触媒
塩基触媒
ノボラック
レゾール
加熱+硬化剤
加熱のみ
フェノール樹脂
特徴 ベークランドが開発した世界初の合成樹脂. 電気絶縁性・耐熱性に優れる.
用途 プリント配線基盤, 電子部品, 断熱材.
[補足事項]
フェノール(Phenol)とホルムアルデヒド(Formaldehyde)の縮合は, 簡単には次のように起こる.
フェノール-OH + HCHO + フェノール-OH →(縮合)→
フェノール-CH₂-フェノール + H₂O
実際には, まずフェノールにホルムアルデヒドが付加し, その生成物と別のフェノールが縮合する.
フェノール-OH + HCHO →(付加)→ フェノール-CH₂OH
この CH₂OH(メチロール基)がさらに別のフェノールと縮合し CH₂ 架橋を形成する。
このように, 付加と縮合が同時に起こる重合を付加縮合という.
フェノール樹脂は, 触媒が酸性か塩基性かで反応が異なる.
酸触媒下:ノボラック(分子量1000程度, 軟らかい固体)
→ 加熱しても硬化しない熱可塑性樹脂
→ 硬化剤を加えて加熱するとフェノール樹脂となる
塩基触媒下:レゾール(分子量300程度の粘性の大きい液体)
→ 多数の -CH₂OH が残るため, 加熱のみでフェノール樹脂となる
ノボラックとレゾールは中間体なのに出題率が非常に高いので要注意.
フェノールは, オルト位とパラ位でホルムアルデヒドと反応してフェノール樹脂となる.
ただし, オルト位とパラ位のすべてが反応するとは限らない.
② 尿素樹脂(ユリア樹脂)(UF)
尿素とホルムアルデヒドを付加縮合させた樹脂.
(構造式部分は元の文字列をそのまま保持)
CO(NH₂)₂ + HCHO →(付加・縮合)→ 立体網目状構造(文字列そのまま)
特徴 比較的安価で, 耐熱性・耐薬品性・透明性・着色性に優れる.
用途 雑貨, ボタン, 食器, おもちゃ.
[補足事項]
尿素(Urea)とホルムアルデヒド(Formaldehyde)の縮合は次のように進む.
H₂N-CO-NH-H + HCH(O) + H-NH-CO-NH₂ →(縮合)→
H₂N-CO-NH-CH₂-NH-CO-NH₂ + H₂O
実際には,
尿素にホルムアルデヒドが付加して H₂N-CO-NH-CH₂OH ができる.
その生成物が別の尿素と縮合して CH₂ 架橋が形成される.
尿素 H₂N-CO-NH₂ は H 原子を4個もつため,
→ 最大4個のホルムアルデヒドと縮合可能.
→ ただし, すべてが縮合するとは限らない.
アミノ基をもつ化合物とホルムアルデヒドの付加縮合によって得られる樹脂を アミノ樹脂 という.
アミノ樹脂には, 尿素樹脂とメラミン樹脂がある.
③ メラミン樹脂(MF)
メラミンとホルムアルデヒドを付加縮合させた樹脂.
(構造式部分は元の文字をそのまま保持. 三嗣環構造や CH₂ 架橋は原文どおり)
特徴 高強度で, 耐熱性・耐水性・耐薬品性に優れ, 美しい光沢をもつ.
用途 化粧板, 塗料, 食器, 家具.
[補足事項]
メラミンはアミノ基を3つもつため, 尿素と同様にホルムアルデヒドと付加縮合する.
→ メラミン1個で最大6個の HCHO と縮合可能.
→ よって非常に強固な三次元網目構造になる.
さらに,
・ベンゼン環に類似した平面構造
をもつため, 高い硬度と耐熱性を示す.
(右図の NH₂ 部位配置は元の文字列で保持)
④ グリプタル樹脂(アルキド樹脂の一種)
アルキド樹脂
多価カルボン酸やその無水物と多価アルコールとの縮合重合によって生じる高分子化合物.
エステル結合 −COO− ができるためポリエステル樹脂の一種.
alkyd は alcohol + acid に由来する.
グリプタル樹脂
無水フタル酸とグリセリンの縮合重合によって得られる樹脂.
フタル酸は2価カルボン酸, グリセリンは3価アルコール.
名称 glyptal は gly(グリ) + phthal(フタル)に由来する.
(フタル酸, 無水フタル酸, グリセリンの構造文字列は原文どおりそのまま)
縮合重合 → エステル架橋の形成.
特徴 耐熱性・耐光性・接着性に優れる.
用途 塗料, 接着剤.
⑤ シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)(SI)
(ジクロロジメチルシラン, トリクロロメチルシランの構造はすべて文字列のまま保持)
加水分解 → シラノール(Si−OH)生成
縮合 → Si−O−Si 結合(シロキサン結合)が形成
(シロキサン構造部分は原文そのままのテキスト)
シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)
特徴
撥水性・耐水性・耐熱性・耐薬品性・電気絶縁性に優れる.
用途
ワックス, 電気絶縁材料, コンタクトレンズ, シリコーンゴム.
[補足事項]
・SiH₄ をシランという.
・シリコン(silicon)=元素.
・シリコーン(silicones)=ケイ素を含む化合物.
日常では混同されがちだが, 学習では区別が必須.
⑥ 不飽和ポリエステル樹脂(UP)
無水マレイン酸などの不飽和2価カルボン酸と,
エチレングリコールなどの2価アルコールを縮合重合して得た不飽和ポリエステルに,
スチレンなどのビニル基をもつ化合物を共重合させて架橋化したもの.
ガラス繊維や炭素繊維で補強した UP は繊維強化プラスチック(FRP)として,
浴槽, ヨットの船体, 航空機材料, スキー板などに利用される.
⑦ エポキシ樹脂
ビスフェノールAとエピクロロヒドリンを共重合させ,
硬化剤(ジエチレントリアミン (NH₂CH₂CH₂)₂NH など)を加えて
エポキシ環を架橋化して硬化させたもの.
(ビスフェノールA, エピクロロヒドリンの構造式は元の文字列をそのまま保持)
エポキシ環(oxirane)の部分は, 元の図形位置そのままテキスト化された状態で保持.
特徴
耐熱性・耐水性・耐食性・耐薬品性・耐摩耗性・接着性・電気絶縁性に優れる.
用途
2液式の強力接着剤, 塗料, 電子回路の基板.
【演習問題】
フェノール100 g とホルムアルデヒド45 g のすべてが縮合重合してできる
フェノール樹脂は何 g か.
H=1.0, C=12, O=16
フェノールの物質量 = 100/94 mol
ホルムアルデヒド HCHO の物質量 = 45/30 = 1.5 mol
ここで,
フェノール1 mol あたり HCHO は最大 1.5 mol 反応し, H₂O が 1.5 mol 脱離する.
100/94 > 1 より, 1.5 mol の HCHO が完全に反応し,
フェノールは一部反応せずに余る.
このとき脱離する H₂O は 1.5 mol.
その質量は
18 g/mol × 1.5 mol = 27 g
生成したフェノール樹脂の質量
100 + 45 − 27 = 118 g
[補足]
フェノールは, オルト位とパラ位で HCHO と反応してフェノール樹脂となる.
つまり, フェノール1分子は最大3か所で HCHO と反応できる.
HCHO 1分子はフェノール2分子と反応し, H₂O 1分子を脱離する.
結局,
フェノール分子1個につき最大 0.5 × 3 = 1.5 個の HCHO が反応し,
1.5 個の H₂O が脱離する.
以下, 元の表をテキストとして正確に保持:
フェノール(分子量94)
1.5 HCHO(分子量30)
→ フェノール樹脂の構造(元の文字位置そのまま)
1.5 H₂O(分子量18)
