
合成樹脂 樹脂状の合成高分子化合物で, 希望の形に成型できる性質(塑性)をもつ.
高密度の結晶部分と低密度の無定形部分からなり, 結晶部分が多いほど硬い.
合成樹脂は, 熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に大別される.
Plastic(可塑性の)に由来し, プラスチックとも呼ばれる.
熱可塑性樹脂 加熱すると軟らかくなり, 冷却すると硬化する性質をもつ合成樹脂.
加熱で軟らかくしてから型に入れ, 冷却することで自由に成形加工できる.
付加重合のものが多く, 一般に鎖状高分子化合物が該当する.
熱硬化性樹脂 加熱すると硬化する性質をもつ合成樹脂.
熱可塑性のある重合度の低い段階(プレポリマー)で成形する必要がある.
熱可塑性樹脂よりも耐熱性や耐薬品性に優れている.
縮合重合のものが多く, 一般に三次元網目状構造の高分子化合物が該当する.
代表的な熱可塑性樹脂
① ポリエチレン(PE)
n エチレン CH₂=CH₂
→[付加重合]
[ … CH₂-CH₂ … ]ⁿ ポリエチレン(PE)
低密度ポリエチレン(LDPE): 高圧・200℃, 枝分かれが多く, 結晶領域が少ない, 透明で軟らかい, 耐薬品性, 用途: 透明なポリ袋, 食品用ラップ
高密度ポリエチレン(HDPE): 常圧・60℃(チーグラー・ナッタ触媒), 枝分かれが少なく, 結晶領域が多い, 不透明で硬い, 耐薬品性, 用途: 半透明なポリ袋, ポリバケツ
[補足文]
LDPE: Low Density Polyethylene
HDPE: High Density Polyethylene
一般に, 枝分かれが少なく, 側鎖が小さい高分子ほど結晶化しやすくなる.
そして, 結晶領域が大きいほど光が内部を直進しにくくなり, 透明度は低くなる.
② ポリプロピレン(PP)
n プロピレン CH₂=CH-CH₃
→[付加重合]
[ … CH₂-CH(CH₃) … ]ⁿ ポリプロピレン(PP)
特徴 最も軽く, ポリエチレンよりも強度・耐熱性・耐薬品性に優れている.
用途 ゴミ箱, クリアファイル.
③ ポリ塩化ビニル(PVC), ポリ塩化ビニリデン(PVDC)
n 塩化ビニル CH₂=CHCl
→[付加重合]
[ … CH₂-CH(Cl) … ]ⁿ ポリ塩化ビニル(PVC)
特徴 非常に硬く, 密度が大きい. 耐水性・耐薬品性に優れる.
難燃性に優れるが, 燃焼時には有毒ガス(HClなど)が発生する.
強熱した銅線に接触させると, 炎が青緑色になる.
生じた塩化銅(Ⅱ) CuCl₂ による Cu²⁺ の炎色反応(バイルシュタイン試験).
可塑剤の割合により, 軟質ポリ塩化ビニルと硬質ポリ塩化ビニルに分類される.
俗に「ビニール」「塩ビ」, 軟質は「ソフトビニール(ソフビ)」とも呼ばれる.
用途 軟質: ビニールシート, ビニール袋, ビニールハウス, 電線被覆, 消しゴム, 塩ビ人形.
硬質: 水道管(光でHClが脱離して強度低下するため, 遮光目的で着色), クレカ.
n 塩化ビニリデン CH₂=CCl₂
→[付加重合]
[ … CH₂-C(Cl)₂ … ]ⁿ ポリ塩化ビニリデン(PVDC)
特徴 透明性・耐薬品性・難燃性・耐候性(屋外での耐久性)に優れる.
塩化ビニルと塩化ビニリデンを共重合させたものはサラン(商標名)と呼ばれる.
用途 食品用ラップ, 漁網, カーテン.
[補足]
エチレンから水素原子1個取れた炭化水素基 CH₂=CH− をビニル基という.
エチレンから水素原子2個取れた炭化水素基 CH₂=C(−)(−) をビニリデン基という.
④ ポリ酢酸ビニル(PVAc)
n 酢酸ビニル CH₂=CH(OCOCH₃)
→[付加重合]
[ … CH₂-CH(OCOCH₃) … ]ⁿ ポリ酢酸ビニル(PVAc)
特徴 軟化点が低い(側鎖が大きくすき間ができやすいから), 有機溶媒に溶ける.
用途 接着剤, チューインガム, 合成繊維ビニロンの原料.
ポリプロピレンの立体規則性 啓林館教科書p406
⑤ ポリスチレン(PS)
n スチレン CH₂=CH−Ph
→[付加重合]
[ … CH₂-CH(Ph) … ]ⁿ ポリスチレン(PS)
特徴 硬い, 透明性・着色性・電気絶縁性が高い, 軟化点が低い, 溶媒に溶けやすい.
不飽和度が大きい(CとHが同数である)ため, 燃焼時に多量のすすが発生する.
用途 CDケース, 電気絶縁材料, プラモデル.
発泡ポリスチレン(発泡スチロール) 発泡剤を用いて成形したもの.
特徴 軽い, 断熱性が高い.
用途 梱包材, 断熱材.
⑥ ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
n メタクリル酸メチル C(CH₃)=CH₂COOCH₃
→[付加重合]
[ … C(CH₃)-CH₂(COOCH₃) … ]ⁿ ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
特徴 無機ガラスに近い透明度をもち, 軽くて割れにくい. 有機ガラスの一つ.
アクリル樹脂(正式名: メタクリル樹脂)として認識されている.
用途 コンタクトレンズ, 航空機の窓ガラス, 水族館の水槽, 光ファイバー.
[補足]
メタクリル酸は, メチルアクリル酸である.
さらに, メタノール CH₃OH とエステル化してメタクリル酸メチルとなる.
アクリル酸 CH₂=CHCOOH
→[メチル化] メタクリル酸 C(CH₃)=CH₂COOH + HO−CH₃
→[エステル化] メタクリル酸メチル C(CH₃)=CH₂COOCH₃ + H₂O
⑦ ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
n テトラフルオロエチレン CF₂=CF₂
→[付加重合]
[ … CF₂-CF₂ … ]ⁿ ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
特徴 不燃性・耐熱性・耐薬品性に優れる.
フッ素樹脂として認識され, 商品名をテフロンという.
用途 フライパンのコーティング, 絶縁材料.
⑧ ポリカーボネート(PC)
n ビスフェノールA HO−Ph(C(CH₃)₂)−Ph−OH
n ホスゲン Cl−CO−Cl
→[縮合重合]
[ … −O−Ph(C(CH₃)₂)−Ph−O−CO− … ]ⁿ ポリカーボネート(PC)
2n HCl
特徴 透明性・耐衝撃性・耐熱性に優れる.
用途 CDの基盤, ヘルメット.
[補足]
ビスフェノールAは, フェノール2個とアセトン CH₃COCH₃ 1個から作る(ビスは2置換の意味).
ホスゲン(二塩化カルボニル)は, ホルムアルデヒド H−CHO のHをClで置き換えた構造である.
−O−COO− をカーボネート結合という.
ナイロンやポリエチレンテレフタレート(PET)と同じく, 縮合重合による合成樹脂である.
