
機能性高分子化合物(機能性樹脂) 特殊な機能をもつ高分子化合物.
① 吸水性高分子(高吸水性樹脂)
アクリル酸塩に架橋剤を加えて重合させ, 立体網目状構造にしたもの.
n
CH₂−CH−COONa
アクリル酸ナトリウム
→(付加重合)
[−CH−CH₂−COONa−]ⁿ
ポリアクリル酸ナトリウム
機能 吸水によって, −COONa が −COO⁻ と Na⁺ に電離する.
−COO⁻ どうしが反発し合い, 立体網目状構造が大きく広がる.
樹脂内は樹脂外よりイオン濃度が高いため, 浸透圧が生じて水が内部に入り込む.
樹脂は透明なゲルとなり, 自身の数十倍~千倍の質量の水を吸収・保持できる.
用途 紙おむつ, 生理用品, 土壌保水材.
② 感光性高分子(光硬化性樹脂)
ポリビニルアルコールにケイ皮酸をエステル化させたもの.
[−CH−CH₂−OH−]ⁿ
ポリビニルアルコール(PVA)
+ n ケイ皮酸
→(エステル化)
[−CH−CH₂−O−CO−C₆H₅−CH=CH−]ⁿ
ポリケイ皮酸ビニル
+ n H₂O
機能 強い光や紫外線が当たると, 分子間に架橋構造を生じて硬化し, 溶媒に不溶になる.
例えば, 感光性樹脂を塗り, 残したい部分に光を当てる.
光が当たった部分は硬化するから, 不要部分を溶媒に溶かすと凸版ができる.
用途 歯科治療材, プリント配線, 集積回路(IC)の製造, 金属の彫刻, 印刷用凸版.
③ 導電性高分子(導電性樹脂)
ポリアセチレンに I₂ や Na などをドーピングしたもの.
n CH≡CH(アセチレン)
→(付加重合)
[−CH=CH−]ⁿ(ポリアセチレン)
機能 ポリアセチレンは, 単結合と二重結合が交互に連なる結合(共役二重結合)をもつ.
電子はこの結合部分を金属の自由電子のように移動できるため, 電導性が生じる.
しかし, ポリアセチレンだけでは半導体程度の電導性しか示さない.
ハロゲンやアルカリ金属などを少量添加すると, 金属並みの電導性が生まれる.
白川英樹博士は, この発見(1977年)で2000年度ノーベル化学賞を受賞した.
用途 高性能電池, コンデンサー, タッチパネル.
④ 生分解性高分子(生分解性プラスチック)
ヒドロキシ酸(OH 基をもつカルボン酸)のポリマー(脂肪族ポリエステルの一種).
n CH₃−CH−OH−COOH(乳酸)
→(縮合重合)
[−CH−O−CO−CH₃−]ⁿ(ポリ乳酸, PLA)
n H−CH−OH−COOH(グリコール酸)
→(縮合重合)
[−CH−O−CO−H−]ⁿ(ポリグリコール酸, PGA)
機能 自然界において, 加水分解や微生物により最終的に二酸化炭素や水に分解される.
一般に, 親水性が高い樹脂であるほど生分解されやすい.
普通のプラスチックに比べ, 環境には優しいが耐久性で劣る.
用途 釣り糸, リサイクル用食品容器, ゴミ袋.
外科手術用の縫合糸(生体内で分解・吸収されるから抜糸の必要がない).
高分子量のポリ乳酸とポリグリコール酸の合成方法
直接的な縮合重合では低分子量の重合体しか得られない.
2 分子の脱水縮合で環状二量体を作り, 開環重合させると高分子量の重合体となる.
乳酸またはグリコール酸の 2 分子 → 脱水縮合
ラクチド(R=CH₃), グリコリド(R=H)
→(開環重合)
ポリ乳酸(R=CH₃), ポリグリコール酸(R=H)
合成樹脂(プラスチック)のリサイクル
プラスチックには, 「腐らない」という大きなメリットがある.
しかし, このメリットは廃棄の際にはデメリットになる.
そこで, 廃棄せずにリサイクルする必要性に迫られる. 以下のような方法がある.
① 製品リサイクル
製品を回収後, 洗浄してそのまま利用する. 最も理想的な方法.
② マテリアルリサイクル(material recycle)
製品を回収後, 一旦溶融し, 加熱成形し直して利用する.
③ ケミカルリサイクル(chemical recycle)
製品を回収後, 単量体や小さな化合物にまで化学的に分解する.
その後, 化学工業の原料や燃料として利用する.
④ サーマルリサイクル(thermal recycle)
製品を回収後, 燃料として燃焼させ, その熱によって発電などを行う.
material:原料, chemical:化学の, thermal:熱の
回収自体が困難な場所や状況では, 生分解性プラスチックの利用が有効である.
問題
(1)微生物の作用で 360 g のポリ乳酸が完全に二酸化炭素と水に分解されたときに発生する二酸化炭素の質量を求めよ.
ポリ乳酸の末端部分は考慮しない.
[−O−CH(CH₃)−CO−]ⁿ + 3n O₂ → 3n CO₂ + 2n H₂O
360/(72n) mol × 3n × 44 g/mol = 660 g
ポリ乳酸が微生物の作用によって二酸化炭素と水にまで分解されることは覚えておきたい.
ポリ乳酸 1 単位に 3 個の C 原子があるから, ポリ乳酸 1 mol から 3n mol の CO₂ が発生する.
ポリ乳酸の分子量は 72n, 二酸化炭素の分子量は 44 である.
(2)ラクチドの立体異性体は何種類か.
不斉炭素 2 個 → 最大 2²=4 種
メソ体 1 個
4−1=3 種類
2 個の不斉炭素原子をもつラクチドには, 最大で 2²=4 種類の立体異性体が存在する可能性がある.
これらをくさび形表記で書き出したのが①〜④である.
くさび形表記は, 紙面手前に突き出ている結合はくさび形, 紙面奥に突き出ている結合は波線で表す.
偶数個の不斉炭素原子をもつとき, 分子内に対称面や対称中心がある(メソ体がある)可能性がある.
③と④は, 紙面手前か奥かまで考慮した三次元的対称中心をもつ.
③を 180° 回転すると ④ と重ねられるから, これらは同一物(メソ体)である.
一般に, 不斉炭素原子が n 個, メソ体が m 個あるとき, 立体異性体の総数は 2ⁿ−m 種類である.
(3)
3n 個のラクチド単位
n 個のグリコリド単位
ラクチド
C−O−O−C(R=CH₃)の環状ジエステル構造
グリコリド
C−O−O−C(R=H)の環状ジエステル構造
→(共重合)
PLGA(3:1)
1 単位あたりの式量は 274, 1 単位あたり 4 つのエステル結合 −CO−O− をもつ.
274n = 5.5×10⁴ より n = 5.5×10⁴/274
PLGA 1 分子中のエステル結合数
= (5.5×10⁴/274) × 4
≈ 8.0×10² 個
両端の −O− と −CO− は合わせて 1 つのエステル結合として扱う.
