
二糖類 C₁₂H₂₂O₁₁
単糖2分子が脱水縮合すると二糖が生じる.
C₆H₁₂O₆ + C₆H₁₂O₆ →[脱水縮合] C₁₂H₂₂O₁₁ + H₂O
逆に, 二糖が希酸(H⁺)や特定の酵素によって加水分解すると単糖2分子が生じる.
C₁₂H₂₂O₁₁ + H₂O →[加水分解][希酸 or 酵素] C₆H₁₂O₆ + C₆H₁₂O₆
マルトース(麦芽糖)
2個のα–グルコースが, それぞれの1位と4位のOH基の間で脱水縮合したもの.
① 還元性あり.
② 加水分解酵素 マルターゼ
③ 水あめの主成分.
デンプンに麦芽(malt)を作用させて得られることに由来する.
分解酵素の名称は, 糖の語尾を -ose (オース)から -ase (アーゼ)に変える.
α–グルコースの構造式が書けるならば, マルトースの構造式は暗記せずとも書けるはずである.
一方のOH基がヘミアセタール構造由来であるエーテル結合をグリコシド結合という.
マルトースの場合のグリコシド結合は, より正確には α–1,4–グリコシド結合と呼ばれる.
脱水縮合後も, 右側のグルコースのヘミアセタール構造がそのまま残る.
つまり, マルトースになった後も, この右側の部分の構造は α形, 鎖状構造, β形 の平衡状態になる.
それゆえ, マルトース水溶液も還元性を示す.
なお, 平衡状態になることを考慮すると, 右側のグルコースが α形である必然性はない.
よって, (α–グルコース)+(β–グルコース)→(マルトース) としても間違いではない.
マルトースを加水分解して生じるグルコースは, α形, 鎖状構造, β形 の平衡混合物になる.
よって, 加水分解生成物が問われた場合, 「α–グルコース」ではなく「グルコース」と答える.
スクロース(ショ糖)
α–グルコースと β–フルクトース(五員環)が,
それぞれの1位と2位のOH基の間で脱水縮合したもの.
① 還元性なし.
② 加水分解酵素 インベルターゼ(スクラーゼ)
③ スクロースの加水分解を特に転化という.
転化されて生じる グルコースとフルクトースの等量混合物 を転化糖という.
転化糖の水溶液は還元性を示す.
④ 砂糖の主成分で, フルクトースに次いで甘味が強い.
サトウキビやテンサイに多く含まれている.
スクロース(sucrose)はサッカロースともいう. また, sucr は砂糖(sugar)のことである.
β–フルクトース(五員環)の2位と5位が入れ替わるよう左右に裏返してから結合させる.
すると, α–1,2–グリコシド結合ができる(結合の α, β は1位のC側の糖が α か β かで決まる).
脱水縮合によって双方のヘミアセタール構造が失われるため, スクロースは還元性を示さない.
「スクロース以外の二糖類は還元性を示す」とする参考書があるが, 正確ではない.
後で示すトレハロースのように, スクロース以外にも還元性を示さない二糖類が存在する.
インベルターゼは, 転化糖(invert sugar)に由来する.
セロビオース
β–グルコースとグルコースが, それぞれの1位と4位のOH基の間で脱水縮合したもの.
① 還元性あり.
② 加水分解酵素 セロビアーゼ
セロビオース(cellobiose)は, 細胞(cell), 2(bi) に由来する.
植物細胞の細胞壁の主成分であるセルロース(多糖)を分解すると, セロビオース(二糖)が生じる.
グルコースの3位と5位が入れ替わるよう上下に裏返してから結合させる.
すると, β–1,4–グリコシド結合ができる.
ここでは右側のグルコースは β–グルコース としたが, α–グルコース としてもよい.
下のように, 右側のグルコースを表にしたままで斜めにつなげる描き方もある.
どちらの表現をされても同じセロビオースであることを認識できるようにしておく必要がある.
ラクトース(乳糖)
β–ガラクトースとグルコースが, それぞれの1位と4位のOH基の間で脱水縮合したもの.
① 還元性あり.
② 加水分解酵素 ラクターゼ
ラクトース(lactose)は, 哺乳類の乳(lact)に含まれている.
左側の糖がセロビオースの β–グルコース から β–ガラクトース に変わっただけである.
グルコースとガラクトースの違いは, 4位のCのOH基が下か上かの違いであった.
トレハロース
2個のα–グルコースが, それぞれの1位と1位のOH基の間で脱水縮合したもの.
① 還元性なし.
② 加水分解酵素 トレハラーゼ
右側の α–グルコース の1位と4位が入れ替わるように表のまま180°回転してから結合させる.
すると, α–1,1–グリコシド結合 ができる.
脱水縮合によって双方のヘミアセタール構造が失われるため, トレハロースは還元性を示さない.
二糖類の性質
① 還元性
多くの二糖類が示すが, スクロースとトレハロースなどは示さない.
あり → フェーリング液を還元し, 酸化銅(I)(Cu₂O)の赤色沈殿が生じる.
あり → アンモニア性硝酸銀水溶液中の Ag⁺ を還元し, Ag が生じる(銀鏡反応).
② 親水性のOH基を複数もつため, 水によく溶ける. 有機溶媒には溶けない.
③ 無色結晶で甘みがある.
甘さ比較 フルクトース > スクロース > グルコース
(単糖) (二糖) (単糖)
(1)
スクロース, マルトース, ラクトースの混合物を希硫酸で完全に加水分解したところ,
グルコース : フルクトース : ガラクトース の割合は, 10 : 2 : 3 となった.
混合物中のラクトースの割合(%)を求めよ.
(2)
スクロースとマルトースの混合物の水溶液を作り, 3等分した.
そのうちの1つにフェーリング液を反応させたところ, 2.145 g の沈殿を生じた.
次に2つめの水溶液を希塩酸で完全に加水分解してフェーリング液を反応させたところ,
14.30 g の沈殿を生じた.
3つめの水溶液に酵素インベルターゼを作用させた. 酵素反応が完全に終了した後,
フェーリング液を反応させたときにできる沈殿の量(g)を求めよ.
Cu₂O = 143
[星薬大]
(1)
スクロース x 個, マルトース y 個, ラクトース z 個 含まれているとする.
(スクロース x) → (グルコース x) + (フルクトース x)
(マルトース y) → (グルコース y) × 2
(ラクトース z) → (ガラクトース z) + (グルコース z)
グルコース x + 2y + z 個
フルクトース x 個
ガラクトース z 個
よって
(x + 2y + z) : x : z = 10 : 2 : 3 より
x = 2k, y = 5/2 k, z = 3k
∴ z / (x + y + z) × 100 = 3k / (2k + 5/2 k + 3k) × 100 = 40 %
(2)
混合溶液中のスクロースの物質量を x mol, マルトースの物質量を y mol とする.
マルトースの物質量は
y = 2.145 g / 143 g/mol = 0.015 mol
希塩酸による加水分解より
2x + 2y = 14.30 g / 143 g/mol = 0.1 mol
よって, スクロースの物質量は
x = 0.035 mol
酵素反応終了後の沈殿の物質量は
2x + y = 0.035 × 2 + 0.015 = 0.085 mol
∴ 沈殿の質量は
143 g/mol × 0.085 mol = 12.155 ≒ 12.16 g
(1)
スクロース x 個が加水分解すると, グルコース x 個 と フルクトース x 個 が生じる.
同様に, マルトース y 個 からは グルコース 2y 個 が生じる.
また, ラクトース z 個 からは ガラクトース と グルコース が z 個ずつ生じる.
それぞれの合計が 10 : 2 : 3 となるように立式すると, 後は数学の比例式の問題である.
一般に, x : y : z = a : b : c は x/a = y/b = z/c と書き換えることができる.
この分数の等式は = k とおき, x = ak, y = bk, z = ck として扱うのが基本である.
本問では, x + 2y + z = 10k, x = 2k, z = 3k となり, y = 5/2 k も導かれる.
後は (ラクトース)/(全体) × 100 を計算すると, 混合物中のラクトースの割合(%)が求められる.
(2)
フェーリング反応では, アルデヒド 1 mol から Cu₂O が 1 mol 生じる(暗記推奨).
R–CHO + 2Cu²⁺ + 5OH⁻ → R–COO⁻ + Cu₂O + 3H₂O
よって, フェーリング反応で生じた Cu₂O の質量から糖の定量が可能である.
スクロースは還元性を示さないから, フェーリング液と反応するのはマルトースのみである.
よって, Cu₂O 2.145 g (= 0.015 mol) はマルトースの物質量と等しい.
希塩酸(H⁺)を作用させると, スクロースとマルトースはいずれも加水分解する.
加水分解により, スクロース x mol は グルコース x mol と フルクトース x mol になる.
また, マルトース y mol は グルコース 2y mol になる.
ここで, グルコース と フルクトース はいずれも還元性を示す.
よって, Cu₂O 14.30 g (= 0.1 mol) は 単糖の合計 2x + 2y mol と等しい.
最後, 酵素インベルターゼを用いて分解するのはスクロースのみである.
よって, スクロース x mol が分解して グルコース x mol と フルクトース x mol が生じる.
これらと マルトース y mol の合計が Cu₂O の物質量と等しい.
