
セルロース(多糖類)
セルロース [C6H7O2(OH)3]ₙ
表
裏
表
裏
β–グルコース単位
セロビオース単位
β–1,4–グリコシド結合
1
4
デンプンとセルロースの比較
主な所在
米や芋
植物の細胞壁(cell wall)
構成単糖
α–グルコース
β–グルコース
立体構造
らせん構造
直鎖構造
還元性 & 甘味
なし
なし
ヨウ素デンプン反応
する
しない
溶解性
アミロースは熱水に溶ける
水にも有機溶媒にも溶けない
アミロペクチンは熱水にも溶けない
シュバイツァー試薬に溶ける
工業
食品工業
繊維工業・製紙工業
セルロースの加水分解
セルロース →〔セルラーゼ〕→ セロビオース →〔セロビアーゼ〕→ グルコース
多糖類であるセルロースの一般式は, デンプンと同じ (C6H10O5)ₙ である.
セルロースは, β–グルコース1単位につき必ず3つのOH基をもつ.
よって, [C6H7O2(OH)3]ₙ とも表せる. セルロースの誘導体を考えるときに重要な表現である.
デンプンは α–グルコース(表)の連続結合, セルロースは β–グルコースの表裏交互の結合である.
グルコースの六員環は, 実際には平面構造ではなく, いす型構造なのであった.
結果として, 以下の概念図が示すように, デンプンはらせん構造, セルロースは直鎖構造を形成する.
セルロースは平行に並ぶ分子間にOH基による水素結合ができ, 水や有機溶媒に不溶な強い繊維となる.
デンプン セルロース
分子間水素結合
ヨウ素デンプン反応は, デンプンのらせん構造内にヨウ素分子が取り込まれることで呈色する.
セルロースはらせん構造をもたないので, ヨウ素デンプン反応で呈色しない.
ヒトはセルロースの分解酵素(セルラーゼ)をもたない.
よって, セルロースをエネルギー源(栄養源)にすることはできない.
シュバイツァー試薬は, テトラアンミン銅(II)イオン [Cu(NH3)4]²⁺ を含む深青色の溶液である.
濃アンモニア水に Cu(OH)2 を加えて作られる.
ニトロセルロース(硝酸セルロース)
セルロースに濃硫酸と濃硝酸の混合溶液(混酸)を作用させる.
グルコース1単位あたり3個あるOH基の全部または一部が硝酸とのエステルを作る.
[C6H7O2(OH)3]ₙ + 3n HNO3 → [C6H7O2(ONO2)3]ₙ + 3n H2O
セルロース トリニトロセルロース
[C6H7O2(OH)3]ₙ + 2n HNO3 → [C6H7O2(OH)(ONO2)2]ₙ + 2n H2O
セルロース ジニトロセルロース
トリニトロセルロース 強綿薬(無煙火薬の原料)
ジニトロセルロース 弱綿薬(セルロイドやコロジオンの原料)
硝酸エステルは, 硝酸 HNO3 を HO–NO2 と考えて作る.
R–OH + HO–NO2 → R–ONO2 + H2O
ニトロセルロースはニトロ化合物(R–NO2)ではなく, 硝酸エステル(R–ONO2)であることに注意.
セルロイドは人類初のプラスチックで, 合成樹脂の発明前は日用品やフィルムなど広く使われていた.
しかし, 燃えやすく事故が多発したため, 現在はほとんど使われなくなった.
コロジオンはジニトロセルロースをアルコールとジエチルエーテルの混合物に溶解させたものである.
水絆創膏や透析用半透膜として利用される.
アセチルセルロース(酢酸セルロース)
セルロースに無水酢酸を作用させる.
グルコース1単位あたり3個あるOH基の全部が酢酸とのエステルを作る.
このトリアセチルセルロースを部分的に加水分解すると, ジアセチルセルロースとなる.
[C6H7O2(OH)3]ₙ + 3n (CH3CO)2O → [C6H7O2(OCOCH3)3]ₙ + 3n CH3COOH
セルロース トリアセチルセルロース
[C6H7O2(OCOCH3)3]ₙ + n H2O → [C6H7O2(OH)(OCOCH3)2]ₙ + n CH3COOH
トリアセチルセルロース ジアセチルセルロース
完全にアセチル化されたトリアセチルセルロースは溶媒に溶けにくい.
ジアセチルセルロースとしてアセトンに溶かし, この溶液を細孔から空気中に押し出す.
アセトンを蒸発させると, 繊維状のジアセチルセルロース(アセテート繊維)が得られる.
天然繊維(セルロース)の一部を化学変化させた繊維なので, 半合成繊維に分類される.
無水酢酸は, 酢酸2分子が脱水縮合したものである.
CH3–CO–OH + HOOC–CH3 → CH3–CO–O–CO–CH3 + H2O
OH基は無水酢酸でアセチル化(酢酸エステル化)されてアセチル基 CH3–CO– に変化し, 酢酸が生じる.
R–OH + CH3–CO–O–CO–CH3 → R–O–CO–CH3 + CH3COOH
再生繊維
セルロースを溶媒に一度溶かした後, 繊維状にして再生したもの.
セルロースの再生繊維は美しい光沢をもつので, レーヨンと呼ばれる.
銅アンモニアレーヨンやビスコースレーヨンなどがある.
銅アンモニアレーヨン(キュプラ)
セルロースをシュバイツァー試薬に溶かした後, 繊維状に再生した繊維.
ビスコースレーヨン
セルロースを NaOH 水溶液と CS2 で処理してビスコースにした後, 繊維状に再生した繊維.
膜状に再生したものがセロハンである.
繊維の分類
天然繊維
植物繊維 綿, 麻(主成分:セルロース)
動物繊維 絹, 羊毛(主成分:タンパク質)
化学繊維
再生繊維 銅アンモニアレーヨン, ビスコースレーヨン
半合成繊維 アセテート
合成繊維 ナイロン, ポリエステル, アクリル繊維
レーヨンは光線(ray)と綿(cotton)からなる造語である.
シュバイツァー試薬は, テトラアンミン銅(II)イオン [Cu(NH3)4]²⁺ を含む深青色の溶液である.
キュプラは銅を意味するフランス語である.
ビスコースは viscous(粘性のある) と糖を表す語尾 -ose からなる造語である.
原子量を C=12.0, H=1.00, O=16.0, N=14.0 とする.
(1) 486 g のセルロースを完全にアセチル化するのに必要な無水酢酸は何 g か.
また, トリアセチルセルロースは何 g 得られるか.
(2) 100 g のセルロースから150 g のニトロセルロースが得られた.
セルロースに存在する OH 基の何% がエステル化されたか.
(1)
[C6H7O2(OH)3]ₙ + 3n (CH3CO)2O → [C6H7O2(OCOCH3)3]ₙ + 3n CH3COOH
無水酢酸の質量は 486/(162n) × 3n × 102 = 918 g
トリアセチルセルロースの質量は 486/(162n) × 288n = 864 g
(2)
[C6H7O2(OH)3]ₙ + 3n HNO3 → [C6H7O2(ONO2)3]ₙ + 3n H2O
完全に硝酸エステル化したときに生じるトリニトロセルロースの質量は
100/(162n) × 297n = 550/3 g
よって, エステル化された割合は
(150 − 100) / (550/3 − 100) = 0.6 = 60 %
(1) [C6H7O2(OH)3]ₙ = 162n, (CH3CO)2O = 102, [C6H7O2(OCOCH3)3]ₙ = 288n
セルロース1 mol と無水酢酸3n mol からトリアセチルセルロース1 mol ができる.
今, セルロース486 g は, 486 g / 162n g/mol = 486/(162n) mol ある.
よって, 必要な無水酢酸の物質量は, (486/(162n) × 3n) mol である.
ゆえに, (486/(162n) × 3n) mol × 102 g/mol によって無水酢酸の質量が求められる.
生成するトリアセチルセルロースの物質量は, セルロースと同じく 486/(162n) mol である.
分子量 288n g/mol を掛けるとトリアセチルセルロースの質量が求まる.
(2) [C6H7O2(ONO2)3]ₙ = 297n
セルロース1 mol と硝酸3n mol からトリニトロセルロース1 mol ができる.
今, セルロースは 100/(162n) mol あるから, 生成するトリニトロセルロースも 100/(162n) mol である.
分子量 297n g/mol を掛けるとトリニトロセルロースの質量が求まる.
後は, 完全にエステル化したときの質量の増加量に対する実際の増加量 50 g の割合を考える.
