
呼吸と代謝
代謝 生体内で生じる様々な化学反応. 同化と異化に大別される.
同化 生物がエネルギーを吸収して単純な物質から複雑な物質を体内で合成する反応.
例 光合成:葉緑体を持つ植物は, 太陽光エネルギーを吸収して, 二酸化炭素と水から糖類を合成する(炭酸同化).
6CO2 + 6H2O -> C6H12O6 + 6O2 ΔH=2803kJ (太陽光エネルギー吸収)
異化 体内で複雑な物質を単純な物質に分解してエネルギーを取り出す反応. 例 呼吸
発熱反応で生じたエネルギーは, 化学エネルギーの形で特定の分子に蓄えられる.
これを高エネルギー化合物といい, 代表は有機リン酸化合物のATPである.
好気呼吸 酸素を用いて有機物を分解し, エネルギーを取り出す手段.
他の生物を摂取・消化して得られたグルコースC6H12O6が細胞内で分解される.
C6H12O6 + 6O2 -> 6CO2 + 6H2O ΔH=-2803kJ (発熱)
嫌気呼吸 酸素を用いずに有機物を分解し, エネルギーを取り出す手段. 例 発酵
ATPの生産効率が好気呼吸よりかなり悪く, 一部の細菌や酵母が行う.
グルコースのアルコール発酵 C6H12O6 -> 2C2H5OH (エタノール) + 2CO2
グルコースの乳酸発酵 C6H12O6 -> 2CH3CH(OH)COOH (乳酸)
ATP (アデノシン三リン酸)
五炭糖のリボースと核酸塩基のアデニンが結合したアデノシンに, リン酸H3PO4 3分子が結合したヌクレオチドの一種.
2個の高エネルギーリン酸結合の加水分解時に放出されるエネルギーが生命活動の源泉.
ATP + H2O -> ADP + H3PO4 ΔH=-30kJ (エネルギー放出)
ヌクレオチド 五炭糖, リン酸, 有機塩基が脱水縮合した化合物. nucleo(核の)tide(結ばれた)
生物は, グルコースの異化で取り出したエネルギーを用いてADPからATPを合成する.
ADP + H3PO4 -> ATP + H2O ΔH=30kJ (エネルギー吸収)
必要に応じてATPをADPに分解し, 放出されたエネルギーを用いて生命活動を行う.
AMP, ADP, ATPのM, D, Tは, mono=1, di=2, tri=3の頭文字である.
好気呼吸ではグルコース1molから32molのATPが合成され, アルコール発酵ではグルコース1molから2.0molのATPが合成される.
また, 1molのATPがリン酸を放出するときに30kJのエネルギーが生じる.
(1) 酵母は, 酸素があるときには好気呼吸を, ないときにはアルコール発酵を行う.
酵母が好気呼吸によって1molのグルコースを代謝して増殖したときの細胞数と同じ細胞数を得るために, アルコール発酵では何molのグルコースが必要か.
(2) 大人が1日に360gのグルコースを摂取するとき, 1日に合成されるATPは何kgか. グルコースとATPの分子量はそれぞれ180, 507である.
(3) グルコース1molの燃焼熱を2803kJとすると, グルコースの酸化で生じるエネルギーの何%が生命活動に利用されるか. 有効数字3桁で答えよ.
(1) 32/2 = 16mol
(2) (360g / 180g/mol × 32) mol × 507g/mol = 32448g ≒ 32.4kg
(3) (30kJ/mol × 32mol) / 2803kJ × 100 ≒ 34.2%
(1) 嫌気呼吸では, 好気呼吸と同じエネルギーを得るために, 16倍のグルコースが必要になる.
(2) ヒトは好気呼吸であるから, グルコース1molから32molのATPが合成される.
グルコース360gは2molであるから, 合成されるATPの物質量はその32倍である.
(3) グルコースを酸化するのは好気呼吸である.
グルコース1molの燃焼で生じる2803kJを用いて32molのATPが合成される.
そして, ATP1molあたり, ADPに分解されるときに放出される30kJが生命活動に利用される.
