
ビニロン 京都大学の桜田一郎らが発明した日本初の合成繊維(1939年).
ビニロンの製法
① 酢酸ビニルを付加重合させ, ポリ酢酸ビニルにする.
② ポリ酢酸ビニルを水酸化ナトリウム水溶液でけん化し, ポリビニルアルコールにする.
〔構造式:酢酸ビニル〕
CH−CH₂−O−C(=O)−CH₃
→(付加重合)→
〔構造式:ポリ酢酸ビニル(PVAc)〕
[ CH−CH₂−O−C(=O)−CH₃ ]ₙ
→(けん化, n NaOH)→
〔構造式:ポリビニルアルコール(PVA)〕
[ CH−CH₂−OH ]ₙ
③ PVA の OH 基の一部(30〜40%)をホルムアルデヒド HCHO でアセタール化する.
PVA は親水基 OH を多く含むので水に溶けやすく, 繊維として利用できない.
OH 基の割合を減らすと, 水に溶けず, 適度な吸湿性をもつ合成繊維となる.
〔構造式:PVA と HCHO の反応模式図(TeX コマンド除去済み)〕
PVA:
…−CH−CH₂−OH−CH−CH₂−OH−…
ホルムアルデヒド:
O=CH₂
→(アセタール化)→
ビニロン:
…−CH−CH₂−O−CH₂−O−CH−CH₂−OH−… + H₂O
特徴 木綿(セルロース)に似た性質, 軽い, 高強度, 耐摩耗性, 耐薬品性.
用途 テント, 漁網, 防護ネット, 作業服, 運動服.
補足:
酢酸ビニルは, アセチレン HC≡CH に酢酸 CH₃COOH を付加して作られる.
ビニルアルコール CH₂=CH(OH) は, 二重結合に OH 基が付加した不安定構造で(エノール形)直ちにアセトアルデヒド CH₃−CHO(ケト形)に変異する(ケト-エノール互変異性).
ビニルアルコールの付加重合では直接 PVA を得られないため, 酢酸ビニル → PVA の経路を利用する.
けん化はエステルの加水分解:
R−COO−R’ + NaOH → R−COONa + R’−OH
PVA は文具用のり, 洗濯用のり, 接着剤などに利用されている.
1 個の C 原子に 2 つのエーテル結合がある化合物 C−O−C−O−C をアセタールという.
以下の問いに整数値で答えよ. C=12, H=1.0, O=16 とする.
(1) 平均分子量 1.0×10⁴ のポリ酢酸ビニルから得られるビニロンの平均分子量を求め, 整数値で答えよ. ただし, アセタール化で 40% の OH 基が反応するものとする.
(2) ポリビニルアルコール 1.0×10⁴ g をアセタール化したところ, 質量が 510 g 増加した. アセタール化されたヒドロキシ基の割合を求めよ. また, この反応で要した 40% ホルムアルデヒド水溶液の質量を求めよ.
(1) 重合度を n とすると, ポリ酢酸ビニルの分子量は 86n
平均分子量 1.0×10⁴ のポリ酢酸ビニルの重合度 n は
n = (1.0×10⁴) / 86
ここで, ポリビニルアルコールにおいて
〔PVA の繰り返し単位〕
[ CH−CH₂−OH ]ₙ
式量:44×n
これは 2倍の単位で
[ CH−CH₂−OH−CH−CH₂−OH ]₍ₙ/2₎
式量:88×(n/2)
と表せる.
40% の OH 基がアセタール化されると,
非アセタール化部分(60%):
88 × (n/2) × (60/100)
アセタール化部分(40%):
アセタール化により
(OH 2個 → O−CH₂−O に変化 → C 原子 1個増加 → 式量 88→100)
よって 100 × (n/2) × (40/100)
ビニロンの平均分子量は
88×(n/2)×(60/100) + 100×(n/2)×(40/100)
= (232/5) n
= (232/5) × (1.0×10⁴/86)
≒ 5.4×10³
別解:
ポリビニルアルコール 1分子当たり (1.0×10⁴)/86 個の OH 基が含まれる.
反応する OH 基は 40%,
(1.0×10⁴/86) × (40/100)
OH 基 2個あたり C 原子1個が増える(12増える)ため
増加分は
(1.0×10⁴/86 × 40/100) × (12/2) ≒ 279
ビニロンの平均分子量
44×(1.0×10⁴/86) + 279 ≒ 5.4×10³
(2)
重合度 n の PVA(式量 44n)に対し,
物質量 = 1.0×10⁴ / (44n) mol
含まれる OH 基の物質量は
(1.0×10⁴ / 44n) × n = 1.0×10⁴ / 44 mol
すべてアセタール化された場合の質量増加は
(1.0×10⁴ / 44) × (12/2) g
アセタール化された OH 基の割合 x[%]
x = 510 / ((1.0×10⁴ / 44) × (12/2))
= 0.374
≒ 37%
反応で要した 40% ホルムアルデヒド水溶液の質量 y:
アセタール化 OH 基の物質量
(1.0×10⁴ / 44) × (37.4/100)
OH 基 2個につき HCHO 1分子(式量 30)
→ OH 1 mol あたり 30/2 mol の HCHO
つまり
(1.0×10⁴ / 44 × 37.4/100) × (30/2) = y × (40/100)
より
y = 3.2×10³ g
(1) ビニロンの計算問題は ポリビニルアルコール(PVA)の繰り返し単位を2倍にして扱う とよい.
つまり, PVA の分子量 44n において,
「44 が n 個」 → 「88 が n/2 個」と考える.
さらに, アセタール化される部分とされない部分を分割 して考える.
40% の OH 基が反応する本問では,
n/2 個のうち n/2 × 40/100 個がアセタール化される.
残りの n/2 × 60/100 個はそのままである.
アセタール化 1ヶ所につき
OH 基 2個 → O−CH₂−O に変化 → C 原子が1個増える(式量 +12)
よってアセタール化部分の式量は
88 → 100
となる.
別解は, OH 基の個数に着目する 方法である.
繰り返し単位1個につき OH 基1個なので,
1分子中の OH 基の個数 = 重合度 n
ここで,
アセタール化1ヶ所につき OH 基2個 → C 原子1個増加(+12)
したがって
OH 基1個につきの増加分は 12/2 = 6
分子量増加分を +279 と求め,
元の 44n と加えればよい.
(2) (1) の別解と同様,
OH 基1個あたりの質量増加を考える.
ただし (1) と異なり,
1.0×10⁴ g は分子量ではなく質量であるため, 重合度 n は求まらない.
1分子あたり n 個の OH 基があるため
1 mol あたり n mol の OH 基がある
→ n は結局消える
つまり,
一定質量の PVA がもつ OH 基の物質量(個数)は重合度 n によらない.
例:
n=200 の 1分子 と n=100 の 2分子
→ 含まれる OH 基の総数は同じ
OH 基1個につき分子量 +6(12/2)増える.
質量増加量は OH 基の反応割合と比例.
→ アセタール化割合 = 質量増加率
アセタール化された OH 基割合を x[%] とすると
(1.0×10⁴ / 44) × (x/100) = 510 / (12/2)
より
x = 37.4 ≒ 37%
アセタール化された OH 基物質量:
(1.0×10⁴ / 44) × (37.4/100) mol
OH 基2個に対し HCHO 1分子 必要(式量30)
→ OH 1 mol あたり HCHO (30/2) mol 必要
求めるのは HCHO ではなく
ホルムアルデヒド水溶液(40%)の質量
水溶液質量 y とすると
HCHO はその 40%
(1.0×10⁴ / 44 × 37.4/100) × (30/2) = y × (40/100)
→ y = 3.2×10³ g
