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高分子化合物
分子量がおおよそ1万以上の化合物で, ほとんどが固体である.
1分子でコロイド粒子並の大きさがあり, 溶解するとコロイド溶液となる(分子コロイド).
高分子化合物の構造と重合の種類
高分子化合物は, 単量体(モノマー)が多数結合して生じた重合体(ポリマー)である.
重合体を構成する繰り返し単位の数を重合度という.
付加重合
二重・三重結合をもつ単量体が連鎖的に付加反応を起こして重合する反応.
例 天然高分子:天然ゴム
合成高分子:ポリエチレン, ポリ塩化ビニル, 合成ゴム
縮合重合
単量体が連鎖的に縮合反応を起こして重合する反応.
※ 縮合:分子間で低分子化合物(H₂O など)が脱離して結合する反応.
例 天然高分子:多糖類(デンプン, セルロース), タンパク質, 核酸
合成高分子:ナイロン66, ポリエチレンテレフタラート(PET)
付加縮合
付加反応と縮合反応を繰り返して重合する反応.
例 フェノール樹脂, 尿素樹脂(ユリア樹脂), メラミン樹脂
開環重合
環状の単量体が環を開きながら連鎖的に重合する反応.
例 ナイロン6(ε–カプロラクタムの開環重合)
共重合
2種類以上の単量体が重合する反応.
例 スチレン–ブタジエンゴム(スチレンと 1,3–ブタジエン)
ポリアミド系繊維(ナイロン)
ポリアミド 多価アミン H₂N–R–NH₂ と多価カルボン酸 HOOC–R–COOH が
縮合重合して多数のアミド結合 – CO–NH – ができた高分子化合物.
[1] ナイロン66(6,6–ナイロン)
n
ヘキサメチレンジアミン
n
アジピン酸
→[縮合重合]
[ – (CH₂)₆ – NH – CO – (CH₂)₄ – CO – ]ₙ + 2n H₂O
特徴 天然の絹に似た肌触りや光沢をもつ世界初の合成繊維.
高強度, 高弾力性, 耐摩耗性, 耐薬品性がある.
用途 衣類, ロープ, 歯ブラシ.
以下は 界面重合(実験室での合成手順) に入る前の段落まで。
実験室での合成手順(界面重合)
① アジピン酸ジクロリドを有機溶媒(ベンゼンやヘキサンなど)に溶かす.
② 別のビーカーに水を入れ, 水酸化ナトリウムとヘキサメチレンジアミンを溶かす.
③ 一方の溶液を他方のビーカーにガラス棒を伝わらせて静かに加える.
④ 境界面にできるナイロン66の薄膜をピンセットで引き上げ, 試験管等で巻き取る.
アジピン酸ジクロリド
〔図挿入部分〕
〔補足説明〕
6個(ヘキサ)のメチレン基(– CH₂ –)と2個(ジ)のアミノ基(– NH₂).
ナイロン66の6,6は, ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の炭素数である.
ナイロン66は, 繰り返し単位一つあたり, 2個のアミド結合をもつ.
(中央の1個)+(両端の0.5個)×2 = 2個
ポリアミド系繊維は, 分子間の NH と CO との間で多くの水素結合を作るため, 強固な繊維となる.
ナイロンは, 昔はデュポン社(米)の登録商標であったが, やがてポリアミド系繊維の総称となった.
天然繊維の絹は, タンパク質からなる高分子である.
タンパク質は, ペプチド結合(アミド結合の一種)をもつ.
よって, 同じアミド結合をもつナイロンは絹と似た性質をもつ.
アジピン酸ジクロリドはアジピン酸よりも反応性が大きいため, 加熱や加圧が不要になる.
比重が1より大きい有機溶媒を用いるときは, ① のビーカーに ② を注ぐ(上が水層, 下が有機層).
比重が1より小さい有機溶媒を用いるときは, ② のビーカーに ① を注ぐ(上が有機層, 下が水層).
アジピン酸ジクロリドとの重合反応では, H₂O ではなく HCl が生成する.
n H₂N–(CH₂)₆–NH₂ + n Cl–CO–(CH₂)₄–CO–Cl
→[縮合重合]
[ – NH–(CH₂)₆–NH–CO–(CH₂)₄–CO – ]ₙ + 2n HCl
生成した HCl は, 未反応のヘキサメチレンジアミンと中和反応して塩 R–NH₃Cl を作ってしまう.
そこで, 塩基(NaOH または Na₂CO₃)を加え, HCl を中和して反応系から取り除く.
ルシャトリエの原理により, HCl, つまりはナイロン66が増える方向への反応が促進される.
互いに混じり合わない2種類の溶液の境界面における縮合重合を界面重合という.
反応物の物質量を正確に合わせる必要がなく, 一方の物質がなくなると自動的に反応が停止する.
[2] ナイロン6(6–ナイロン)
ε–カプロラクタム
→[開環重合]
[ – (CH₂)₅ – NH – CO – ]ₙ
ナイロン6
〔以下、補足説明〕
C 原子6個もつ直鎖カルボン酸 CH₃–CH₂–CH₂–CH₂–CH₂–COOH の慣用名をカプロン酸という.
1分子中にカルボキシ基 – COOH とアミノ基 – NH₂ を合わせもつ化合物をアミノ酸という.
カルボキシ基から近い順に, 炭素を α, β, γ, δ, ε(イプシロン)位とする.
よって, H₂N–⁽ε⁾CH₂–⁽δ⁾CH₂–⁽γ⁾CH₂–⁽β⁾CH₂–⁽α⁾CH₂–COOH は, ε–アミノカプロン酸である.
環状のアミド結合をもつ化合物をラクタムという.
ε–アミノカプロン酸が分子内脱水縮合して生成するラクタムが ε–カプロラクタムである.
ナイロン6はナイロン66と同様の脂肪族ポリアミドであり, 性質・用途も類似している.
[3] ポリ–p–フェニレンテレフタルアミド(代表的なアラミド繊維)
n p–フェニレンジアミン
n テレフタル酸ジクロリド
→[縮合重合]
[ – NH–C₆H₄–NH–CO–C₆H₄–CO – ]ₙ + 2n HCl
ポリ–p–フェニレンテレフタルアミド(ケブラー)
特徴 超高強度, 耐熱性, 超高弾力性.
用途 消防服, 防弾チョッキ, 安全手袋.
〔補足説明〕
脂肪族ポリアミドであるナイロンと区別するため, 芳香族ポリアミドをアラミドと名付けた.
ケブラーはデュポン社(米)の登録商標である.
ケブラーは, ナイロン66のメチレン基 – CH₂ – の部分をベンゼン環で置換した構造をもつ.
一般に, 高分子化合物は, 大きく安定な構造であるベンゼン環が入ると強度が増し, 柔軟性が減る.
ポリエステル系繊維
ポリエステル 多価アルコール HO–R–OH と多価カルボン酸 HOOC–R–COOH が
縮合重合して多数のエステル結合 – COO – ができた高分子化合物.
ポリエチレンテレフタラート(PET)
n テレフタル酸
n エチレングリコール
→[縮合重合]
[ – CO–C₆H₄–CO–O–(CH₂)₂–O – ]ₙ + 2n H₂O
特徴 親水基をもたないため, 吸湿性が低い(速乾性が高い).
硬くてしわになりにくい, 耐熱性, 耐摩耗性, 紫外線に強い, リサイクル容易.
用途 合成繊維として衣類(フリース), 合成樹脂としてペットボトル.
〔補足説明〕
同じ合成高分子化合物でも, 繊維状に加工すると合成繊維, 樹脂状に加工すると合成樹脂となる.
加水分解されるため, エステル結合を持つ高分子化合物は強アルカリ性の液体を保存できない.
ポリアクリロニトリル系繊維
n アクリロニトリル
→[付加重合]
[ – CH₂–CH(CN) – ]ₙ
ポリアクリロニトリル(PAN)
アクリル繊維 ポリアクリロニトリルを主成分(質量比85% 以上)とする合成繊維.
特徴 軽い, 軟らかい, 保湿性, 羊毛に類似, 燃焼で有毒なシアン化水素 HCN が発生.
用途 セーター, 毛布, カーペット.
炭素繊維(カーボンファイバー)
ポリアクリロニトリルを高温で処理して得られるほぼ炭素のみの繊維.
特徴 高強度・高弾性・耐熱性・耐薬品性.
用途 ゴルフクラブ, テニスラケット, 釣り竿, 飛行機の機体.
〔補足説明〕
CH₂=CHCOOH をアクリル酸という.
– CN をシアノ基(ニトリル基), 化合物 R–CN をニトリルという.
ポリアクリロニトリル(PAN)単独で構成されている繊維は染色性が悪い.
アクリル酸メチルや酢酸ビニルなどと共重合させると染色性が向上し, 実用性が増す.
また, 塩化ビニルや塩化ビニリデンと共重合させたものは難燃性で, 防炎カーテンなどに用いられる.
ポリアクリロニトリルの質量比が35% 以上85% 以下である繊維の総称をモダクリル繊維という.
以前はアクリル系繊維と呼ばれたが, 世界標準に合わせて2022年にモダクリル繊維に変更された.
炭素繊維は無機化学非金属元素の炭素の項目でも登場した.
アクリル樹脂(後に学習)は, PAN ではなくポリメタクリル酸メチル(PMMA)の重合体なので注意!
以下の問いに整数値で答えよ. C=12, H=1.0, N=14, O=16
(1) 分子量 3.0×10⁴ のナイロン66分子1個に含まれるアミド結合は何個か.
(2) ポリエチレンテレフタレート 1.0 kg を合成するときに必要なテレフタル酸の質量を求めよ.
(3) 100 g のテレフタル酸と 100 g のエチレングリコールを完全に反応させてポリエチレンテレフタレートを合成したときに発生する水の質量を求めよ.
(1)
重合度 (3.0×10⁴) / 226 より, 分子1個中のアミド結合は
((3.0×10⁴)/226) × 2 ≈ 265 個
(2)
重合度を n とすると, ポリエチレンテレフタレート 1.0 kg の物質量は
1000 / (192 n) mol
重合度 n のポリエチレンテレフタレート 1 mol は n mol のテレフタル酸から作られる.
必要なテレフタル酸の質量は
((1000 / (192 n)) × n) mol × 166 g/mol ≈ 865 g
(3)
テレフタル酸の物質量は 100/166 mol,
エチレングリコールの物質量は 100/62 mol である.
よって, テレフタル酸 (100/166) mol が完全に反応する.
n mol のテレフタル酸が反応すると 2n mol の水が生じるから
発生する水の質量は
((100/166) × 2) mol × 18 g/mol ≈ 22 g
〔補足説明〕
(1)
ナイロン66
[ – NH–(CH₂)₆–NH–CO–(CH₂)₄–CO – ]ₙ
の分子量は 226n.
分子量 3.0×10⁴ のナイロン66分子の重合度 n は
226n = 3.0×10⁴
より
n = (3.0×10⁴)/226
ナイロン66は繰り返し一つあたり 2 個のアミド結合をもつのであったから, これを 2 倍する.
ナイロン66の反応式は, 厳密には重合体の両端の H–, –OH を考慮した次になる.
n H₂N–(CH₂)₆–NH₂ + n HOOC–(CH₂)₄–COOH
→[縮合重合]
H–[ – NH–(CH₂)₆–NH–CO–(CH₂)₄–CO – ]ₙ–OH + (2n−1) H₂O
重合度 n が十分に大きい高分子化合物では, 両端の H–, –OH を H₂O にまとめてもよい.
つまり, 教科書・参考書に載っている次の反応式になる.
n H₂N–(CH₂)₆–NH₂ + n HOOC–(CH₂)₄–COOH
→[縮合重合]
[ – NH–(CH₂)₆–NH–CO–(CH₂)₄–CO – ]ₙ + 2n H₂O
仮に正確な式を使うと, 分子量は 226n + 18 となる.
226n + 18 = 3.0×10⁴ より
重合度 n = (3.0×10⁴ − 18)/226
アミド結合の数は発生する水分子の数と等しいから
2n − 1 = 2×((3.0×10⁴ − 18)/226) − 1 ≈ 264
解答は 1 個ずれているが, 高分子化合物分野では許容される.
(2)
n HOOC–COOH + n HO–(CH₂)₂–OH
→[縮合重合]
[ – CO–CO–O–(CH₂)₂–O – ]ₙ + 2n H₂O
ポリエチレンテレフタレート(分子量 192n)の合成には, n 倍の物質量のテレフタル酸を要する.
PET の物質量を n 倍した後, テレフタル酸の分子量 166 を掛けると質量が求まる.
テレフタル酸の物質量を求めるとき, 重合度 n が約分で消える点が重要である.
つまり, 一定質量の重合体の合成に必要な単量体の物質量は重合度 n によらず一定である.
(3)
エチレングリコール HO–(CH₂)₂–OH の分子量は 62.
物質量の少ないテレフタル酸の方が完全に反応し, 物質量の多いエチレングリコールは余る.
反応式より, 発生する水の物質量は反応したテレフタル酸の 2 倍である.
テレフタル酸の物質量を 2 倍した後, 水の分子量 18 を掛けると質量が求まる.
