
アミノ酸同士は, – COOH基と- NH₂基の間で脱水縮合して結合でき, アミド結合-CO-NH-をもつ物質が生じる.
アミノ酸同士のアミド結合をペプチド結合といい, ペプチド結合をもつ物質をペプチドという.
NH₂-CH(R₁)-COOH + H₂N-CH(R₂)-COOH -> NH₂-CH(R₁)-CO-NH-CH(R₂)-COOH + H₂O
ペプチド
ジペプチド アミノ酸2分子が結合してできたペプチド.
トリペプチド アミノ酸3分子が結合してできたペプチド.
ポリペプチド 多数のアミノ酸分子が結合してできたペプチド.
さて, グリシンとアラニンからなるペプチドの異性体について考える.
グリシン(Gly)
NH₂-CH₂-COOH
アラニン(Ala)
NH₂-CH(CH₃)-COOH
グリシン(Gly)とアラニン(Ala)からなる鎖状ジペプチドの異性体
NH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₃)-COOH
グリシルアラニン(Gly–Ala*)
NH₂-CH(CH₃)-CO-NH-CH₂-COOH
アラニルグリシン(Ala*–Gly)
グリシンのCOOH基とアラニンのNH₂基が脱水縮合するとグリシルアラニンができる.
アラニンのCOOH基とグリシンのNH₂基が脱水縮合するとアラニルグリシンができる.
不斉炭素原子C*が1個あるから, それぞれ2種類の鏡像異性体が存在する.
異性体は, 構造異性体が2種類, 鏡像異性体を区別した総数が4種類である.
[ペプチドは, N末端(NH₂の残った側)を左側, C末端(COOHの残った側)を右側で書くことが多い.
ペプチドの名称は, N末端からC末端への順で語尾を-ineから-ylに変えて呼ぶ.
N–Gly–Ala*–C と N–Ala*–Gly–C は別物というわけである(NはN末端, CはC末端を表す).]
グリシン(Gly)1分子とアラニン(Ala)2分子からなる鎖状トリペプチドの異性体
NH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₃)-CO-NH-CH(CH₃)-COOH
グリシルアラニルアラニン(Gly–Ala*–Ala*)
NH₂-CH(CH₃)-CO-NH-CH₂-CO-NH-CH(CH₃)-COOH
アラニルグリシルアラニン(Ala*–Gly–Ala*)
NH₂-CH(CH₃)-CO-NH-CH(CH₃)-CO-NH-CH₂-COOH
アラニルアラニルグリシン(Ala*–Ala*–Gly)
構造異性体が3種類あり, それぞれ2個の不斉炭素原子C*をもつから, それぞれ2²=4種類の鏡像異性体が存在する.
異性体は, 構造異性体が3種類, 鏡像異性体を区別した総数が12種類である.
グリシン(Gly)とシステイン(Cys)とグルタミン酸(Glu)からなる鎖状トリペプチドの異性体
システイン (Cys)
NH₂-CH(CH₂-SH)-COOH
グルタミン酸 (Glu)
NH₂-CH(CH₂-CH₂-COOH)-COOH
(α位 = 主鎖側の COOH, γ位 = 側鎖末端の COOH)
[1] グルタミン酸GluがC末端:構造異性体2種類, 鏡像異性体を区別した総数8種類
① N–Gly–Cys*–Glu*–C
NH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-SH)-CO-NH-CH(CH₂-CH₂-COOH)-COOH
② N–Cys*–Gly–Glu*–C
NH₂-CH(CH₂-SH)-CO-NH-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-CH₂-COOH)-COOH
[2] グルタミン酸GluがN末端:構造異性体4種類, 鏡像異性体を区別した総数16種類
① N–Gluα–Gly–Cys–C
NH₂-CH(CH₂-CH₂-COOH)-CO-NH-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-SH)-COOH
② N–Gluα–Cys–Gly–C
NH₂-CH(CH₂-CH₂-COOH)-CO-NH-CH(CH₂-SH)-CO-NH-CH₂-COOH
③ N–Gluγ–Gly–Cys–C
NH₂-CH(CH₂-CH₂-CO-NH-)構造式の関係上ここはγ縮合を示す→
→ NH₂-CH(CH₂-CH₂-CO-NH-CH₂)-CO-NH-CH(CH₂-SH)-COOH
④ N–Gluγ–Cys–Gly–C
NH₂-CH(CH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-SH)) -CO-NH-CH₂-COOH
(※上の③④は γ位の COOH が縮合に使われるため,
Glu の側鎖 –CH₂–CH₂–COOH 部分がペプチド結合化して主鎖に組み込まれる)
[3] グルタミン酸Gluが中央:構造異性体6種類, 鏡像異性体を区別した総数24種類
① N–Gly–Gluα–Cys–C
NH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-CH₂-COOH)-CO-NH-CH(CH₂-SH)-COOH
② N–Cys*–Glu*α–Gly–C
NH₂-CH(CH₂-SH)-CO-NH-CH(CH₂-CH₂-COOH)-CO-NH-CH₂-COOH
③ N–Gly–Gluγ–Cys–C
NH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-CH₂-CO-NH-)→NH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-SH))-COOH
④ N–Cys*–Glu*γ–Gly–C
NH₂-CH(CH₂-SH)-CO-NH-CH(CH₂-CH₂-CO-NH-CH₂)-COOH
⑤ C–Gly–Gluα–Gluγ–Cys*–C
(両端がC末端扱いとなるため, Gly と Cys の NH₂ が使用され,
Glu の α と γ が両方とも縮合に参加する特殊形)
NH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-SH))-COOH
(上式は ⑤ と ⑥ に共通する基本骨格)
⑥ C–Gly–Gluγ–Gluα–Cys*–C
(⑤ とは α/γ の結合順序が逆のもの)
まず, Gly, Cys*, Glu* の並べ方は3! = 6通りある.
注意すべきは, 酸性アミノ酸であるグルタミン酸は α 位と γ 位に2つのCOOH基をもつ点である.
α 位と γ 位のどちらのCOOH基がペプチド結合するかで構造の違いが生じる([2]の①と③).
グルタミン酸がC末端でないとき, α 位と γ 位の違いを考慮する必要が生じる.
さらに注意すべきは, グルタミン酸の2つのCOOH基が同時にペプチド結合する場合である.
グルタミン酸が中央にあるとき, この場合を考慮する必要が生じる([3]の⑤と⑥).
グリシンとシステインのNH₂基がペプチド結合し, トリペプチドの両端はC末端となっている.
なお,
C–Cys*–Gluα–Gluγ–Gly–C
は[3]⑥と同一物である.
(構造式の直線表記:参考)
CH₂-SH-CH(NH₂)-COOH(Cys)
COOH-CH(NH₂)-CH₂-CH₂-COOH(Glu)
などの基準形から縮合位置に応じて骨格が変化している。
[2]の④の
N–Gluγ–Cys–Gly–C
は特にグルタチオンと呼ばれ, 入試で散見される.
グルタチオン(還元型)直線式:
NH₂-CH(CH₂-CH₂-CO-NH-CH(CH₂-SH))-CO-NH-CH₂-COOH
まず, 通常のα位ではなく側鎖のγ位のCOOH基が縮合している点が特徴的である.
また, 主に生物の細胞内に還元型(上構造式)として存在する.
細胞内に老化や癌をもたらす酸化性物質が生じると, 還元性をもつSH基で還元して無害化する.
自身は2分子のSH基が酸化され, S-S結合(ジスルフィド結合)した二量体(酸化型)となる.
R-SH + HS-R -> R-S-S-R + 2H⁺ + 2e⁻
