アミノ酸は,\ \textbf{\textcolor{red}{水溶液中では陽イオン・双性イオン・陰イオンが平衡状態}}にある. 水溶液のpHが変化すると平衡が移動}}し,\ それぞれのイオンの割合が変化する. \\[.5zh]
\textbf{\ce{OH-}\,を増やす(塩基性を強める)と,\ 弱塩基\ce{NH2}\,が遊離する.} \\[.2zh]
\textbf{\ce{H+}\,を増やす(酸性を強める)と,\ 弱酸\ce{COOH}が遊離する.} \\[.5zh]
正と負の電荷が平衡混合物全体として0になるときのpHの値}}を\textbf{\textcolor{blue}{等電点}}という. \\
\textbf{\textcolor{red}{等電点ではほとんどが双性イオン}}で,\ わずかに残った\textbf{\textcolor{red}{陽イオンと陰イオンの濃度は等しい.}} \\\\
\textbf{\textcolor{BrickRed}{中性アミノ酸}}の等電点 \textbf{\textcolor{BrickRed}{中性付近}} \rei\ \ アラニンの等電点 6.0 \\[.2zh]
\textbf{\textcolor{cyan}{酸性アミノ酸}}の等電点 \textbf{\textcolor{cyan}{酸性側}} \rei\ \ グルタミン酸の等電点 3.2 \\[.2zh]
\textbf{\textcolor{magenta}{塩基性アミノ酸}}の等電点 \textbf{\textcolor{magenta}{塩基性側}} \rei\ \ リシンの等電点\ 9.7
グルタミン酸は2つのカルボキシ基をもち,\ 水溶液中では以下の4状態の平衡ができる. \\[.2zh]
\ce{OH-}を加えていくと,\ 不斉炭素原子\ce{C}^*に直接結合している\ce{COOH}から先に\ce{H+}が放出される.陽イオン(1価) 双性イオン 陰イオン(1価) 陰イオン(2価)} \\[.8zh]
等電点(双性イオンの多い状態)にするには,\ 中性アミノ酸よりも多くの\ce{H+}\,が必要になる. \\[.2zh]
よって,\ 酸性アミノ酸の等電点は酸性側に寄る. \\[1zh]
リシンは2つのアミノ基をもち,\ 水溶液中では以下の4状態の平衡ができる. \\[.2zh]
\ce{OH-}を加えていくと,\ 不斉炭素原子\ce{C}^*に直接結合している\ce{NH3+}\,から先に\ce{H+}が放出される. 等電点(双性イオンの多い状態)にするには,\ 中性アミノ酸よりも多くの\ce{OH-}\,が必要になる. \\[.2zh]
よって,\ 塩基性アミノ酸の等電点は塩基性側に寄る. \\[1zh]
結局,\ \bm{アミノ酸は\textbf{pH}が小さいほど陽イオンの割合が,\ \textbf{pH}が大きいほど陰イオンの割合が増加する.}
電気泳動によるアミノ酸の分離}} \\[1zh]
アミノ酸の混合水溶液に適当なpHのもとで直流電圧をかける. \\[.2zh]
\textbf{\textcolor[named]{ForestGreen}{等電点の違い}}により,\ 各アミノ酸を分離できる. \\
アラニン・グルタミン酸・リシンの混合溶液}}}
緩衝液(pH6.0)で湿らせたろ紙}}}
等電点6.0のアラニン}は,\ \textcolor{BrickRed}{pH\,6.0の緩衝液中では主に双性イオン}の状態で存在する. \\[.2zh]
全体として\textcolor{BrickRed}{帯電していない}ため,\ 電圧をかけても\textcolor{BrickRed}{移動しない.} \\[1zh]
\textcolor{cyan}{等電点3.2のグルタミン酸}は,\ \textcolor{cyan}{pH\,6.0の緩衝液中では主に陰イオン}の状態で存在する. \\[.2zh]
全体として\textcolor{cyan}{負に帯電}しているため,\ 電圧をかけると\textcolor{cyan}{陽極側に移動}する. \\[1zh]
\textcolor{magenta}{等電点9.7のリシン}は,\ \textcolor{magenta}{pH\,6.0の緩衝液中では主に陽イオン}の状態で存在する. \\[.2zh]
全体として\textcolor{magenta}{正に帯電}しているため,\ 電圧をかけると\textcolor{magenta}{陰極側に移動}する.} \\\\\\\\
\textbf{\textcolor{blue}{陽イオン交換樹脂によるアミノ酸の分離}} \\[1zh]
\textbf{陽イオン交換樹脂(\textcolor{red}{水溶液中の陽イオンを吸着})}を詰めた円筒状ガラス管を用意する. \\[.2zh]
これに,\ pHを2.0にしたアラニン,\ グルタミン酸,\ リシンの混合溶液を通す. \\[.2zh]
\textbf{\textcolor{Purple}{pH\,2.0の緩衝液中ではどのアミノ酸も陽イオン}}の状態で存在し,\ \textbf{\textcolor{Purple}{樹脂に吸着}}される. \\[.2zh]
ガラス管に通す緩衝液のpHを大きくしていくと,\ 吸着したアミノ酸が順に溶出する. \\[1zh]
\textbf{緩衝液の\textcolor{cyan}{pHを4.0}にすると,\ \textcolor{cyan}{グルタミン酸(等電点3.2)が双性イオン}となり,\ 溶出する. \\[.2zh]
緩衝液の\textcolor{BrickRed}{pHを7.0}にすると,\ \textcolor{BrickRed}{アラニン(等電点6.0)が双性イオン}となり,\ 溶出する. \\[.2zh]
緩衝液の\textcolor{magenta}{pHを11.0}にすると,\ \textcolor{magenta}{リシン(等電点9.7)が双性イオン}となり,\ 溶出する.} \\[1zh]
このように,\ 等電点の小さいアミノ酸から順に溶出・分離される. \\\\\\\\\\
グリシンの水溶液中では,\ 次の平衡関係がある. \\[.5zh]
\hspace{.5zw} $\ce{H3N+-CH2-COOH <=>[K_1] H3N+-CH2-COO- + H+}$ \\[.5zh]
\hspace{.5zw} $\ce{H3N+-CH2-COO- <=>[K_2] H2N-CH2-COO- + H+}$ \\[1zh]
\hspace{.5zw}(1)\ \ 電離定数が$K_1=4.0\times10^{-3}$\,mol/L,\ $K_2=2.5\times10^{-10}$\,mol/Lとしてグリシンの \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ 等電点を求めよ. \\[.8zh]
\hspace{.5zw}(2)\ \ pH\,1の水溶液中における陽イオン・双性イオン・陰イオンのモル濃度の比と \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ 双性イオンの存在割合を求めよ. \\
(1)\ \ 電離定数の式を作って[\,\ce{G+}]と[\,\ce{G-}]について解いた後,\ 等電点の条件[\,\ce{G+}]=[\,\ce{G-}]に代入する. \\[.4zh]
\phantom{(1)}\ \ さらに[\,\ce{H+}]について解いた後,\ \text{pH}を求める. \\[1zh]
(2)\ \ 電離定数の式を\ \bunsuu{[\,\ce{G^{\pm}}]}{[\,\ce{G+}]}=に変形した後に[\,\ce{H+}]の値を代入すると,\ [\,\ce{G+}]と[\,\ce{G^{\pm}}]の比が求まる.
\phantom{(1)}\ \ \maru1と合体して解答を得る. \\[.2zh]
\phantom{(1)}\ \ 1:0.04:0.0000000001\ であり,\ \text{pH}\,1の強酸下では陽イオンの割合が圧倒的に多いことがわかる. \\[.2zh]
\phantom{(1)}\ \ 逆に言えば,\ 陰イオンの割合は無視できるほど小さい. \\[.2zh]
\phantom{(1)}\ \ 実際,\ 双性イオンの割合は,\ \bm{10^{-10}\,を無視して計算しても有効数字に影響しない.} \\[1zh]
\phantom{(1)}\ \ 一般化する.\ 双性イオンの存在割合f^{\pm}を[\,\ce{H+}],\ K_1,\ K_2\,で表すと(分母分子を[\,\ce{G^{\pm}}]で割る) \\[.2zh]
同様に,\ 陽イオンの存在割合f^+を[\,\ce{H+}],\ K_1,\ K_2\,で表すと(分母分子を[\,\ce{G+}]で割る) \\水溶液中の各イオンの存在割合のグラフにすると以下となる.\ 詳細は次問で取り扱う. \\
図は0.10\,mol/Lのグリシン塩酸塩水溶液10\,mLに0.10\,mol/Lの\ce{NaOH}水溶液を滴下 \\[.2zh]
\hspace{.5zw}したときのpHの変化を表したものである.\ グリシン塩酸塩の電離で生じたグリシン陽 \\[.2zh]
\hspace{.5zw}イオンは,\ 水溶液中で次のように二段階電離する. $\log_{10}2=0.30,\ \log_{10}3=0.48$ \\[1zh]
\hspace{.5zw} $\ce{H3N+-CH2-COOH <=>[K_1] H3N+-CH2-COO- + H+}$ ($K_1=4.0\times10^{-3}$\,mol/L) \\[.5zh]
\hspace{.5zw} $\ce{H3N+-CH2-COO- <=>[K_2] H2N-CH2-COO- + H+}$ \hspace{-.1zw}($K_2=2.5\times10^{-10}$\,mol/L) \\[1.4zh]
\hspace{.5zw}(1)\ \ 0.10\,mol/Lのグリシン塩酸塩水溶液のpHを求めよ. \\[.8zh]
\hspace{.5zw}(2)\ \ \ce{NaOH}水溶液を5\,mL滴下した時点でのpHを求めよ. \\[.8zh]
\hspace{.5zw}(3)\ \ \ce{NaOH}水溶液を15\,mL滴下した時点でのpHを求めよ. \\[.8zh]
\hspace{.5zw}(4)\ \ \ce{NaOH}水溶液を20\,mL滴下した時点でのpHを求めよ. \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ 水のイオン積を$K_{\text w}=1.0\times10^{-14}$\,(mol/L)$^2$とする. 2価の弱酸グリシン陽イオンの二段階中和}}}} \\\\[.5zh]
$\ce{H3N+-CH2-COOH}を\ce{G+},\ \ce{H3N+-CH2-COO-}を\ce{G^{\pm}},\ \ce{H2N-CH2-COO-}を\ce{G-}と表す.$ \\\\[1zh]
(1)\ \ $K_1\gg K_2$より,\ 第二電離は無視できる. \\[.2zh]
\phantom{ (1)}\ \ グリシン陽イオン\ce{G+}の濃度を$C$\,[mol/L],\ 電離度を$\alpha$とする. \\[1zh]
2個の\ce{H+}\,が電離できるので,\ \bm{グリシン陽イオン\ce{G+}は2価の弱酸とみなせる.} \\[.2zh]
よって,\bm{グリシン陽イオン\ce{G+}を\ce{NaOH}水溶液で滴定すると2個の中和点をもつ滴定曲線が得られる.} \\[1zh]
弱酸が電離平衡に達したときの\text{pH}の求め方は理論化学で学習済みなので,\ 簡単な解説に留める. \\[.2zh]
電離度を\,\alpha\,として平衡時の各イオンのモル濃度を求め,\ 平衡定数の式を作ると電離度\,\alpha\,が求まる. \\[.2zh]
一般に,\ \alpha\leqq0.05ならば1-\alpha\kinzi1と近似できるが,\ そもそも\,\alpha\,の値は求めてみるまでわからない. \\[.2zh]
そこで,\ 一旦\,\alpha\leqq0.05と仮定し,\ 1-\alpha\kinzi1と近似して\,\alpha\,の値を求めてみる.{0.10}}=0.2\geqq0.05なので,\ 近似1-\alpha\kinzi1は不適切である. \\[1zh]
結局,\ 近似せずに2次方程式の解の公式を用いて\,\alpha\,を求めることになる. \\[.2zh]
有効数字に影響しない.
水溶液中では塩は100\%電離するから,\ 実際にはグリシン陽イオン\ce{G+}が1.0\times10^{-3}\,\text{mol}ある. \\[.2zh]
一方,\ 0.10\,\text{mol/L}の\ce{NaOH}水溶液5\,\text{mL}の中に\ce{NaOH}は0.10\times0.005=5.0\times10^{-4}\,\text{mol}含まれる. \\[.2zh]
よって,\ \ce{NaOH}水溶液を5\,\text{mL}滴下すると,\ 5.0\times10^{-4}\,\text{mol}の\ce{G+}が中和されて\ce{G^{\pm}}となる. \\[.2zh]
\ce{G+}は1.0\times10^{-3}-5.0\times10^{-4}=5.0\times10^{-4}\,\text{mol}残るから,\ 結局\ce{G+}と\ce{G^{\pm}}のモル濃度が等しくなる. \\[1zh]
\text{pH}=-\log_{10}[\,\ce{H+}]と同様に,\ \text pK_1=-\log_{10}K_1\,と定義し,\ これを\bm{酸解離定数}という. \\[.4zh]
\bm{第一電離の中間点では\textbf{pH}=\textbf pK_1}\,となる. \\[1zh]
また,\ グリシンはこの点で\bm{緩衝作用}(少量の酸や塩基を加えても\text{pH}がほぼ一定に保たれる)を示す. \\[.2zh]
酸を少量加えると\ce{G^{\pm}}が\ce{H+}を受け取って\ce{G+}となり,\ 塩基を少量加えると\ce{G+}が中和反応する. \\[.2zh]
よって,\ 水溶液中の\ce{H+}や\ce{OH-}の濃度はほとんど変化しない.
K_1\gg K_2\,より,\ 一段階目の中和が完全に終了してから二段階目の中和が始まる. \\[.2zh]
\ce{NaOH}を10\,\text{mL}\ (1.0\times10^{-3}\,\text{mol})加えると,\ \ce{G+}\ 1.0\times10^{-3}\,\text{mol}がすべて中和されて\ce{G^{\pm}}になる. 残るから,\ 結局\ce{G^{\pm}}と\ce{G-}のモル濃度が等しくなる. \\[1zh]
(2)と同様,\ \bm{第二電離の中間点では\textbf{pH}=\textbf pK_2}\,が成り立つ. \\[.2zh]
ところで,\ 先程の問題で示したように,\ 等電点では[\,\ce{H+}]=\ruizyoukon{K_1K_2}\,となるのであった. つまり,\ \bm{アミノ酸の等電点は\,\textbf pK_1\,と\textbf pK_2\,の平均値}である. \\[1zh]
グリシンは第二電離の中間点でも\bm{緩衝作用}を示す. \\[.2zh]
酸を少量加えると\ce{G-}が中和反応し,\ 塩基を少量加えると\ce{G^{\pm}}が\ce{H+}を放出して\ce{G-}となる. \\[.2zh]
よって,\ 水溶液中の\ce{H+}や\ce{OH-}の濃度はほとんど変化しない.
グリシン陰イオン\ce{G-}の濃度を$C$\,[mol/L],\ 加水分解する割合を$h$とする. \\[1zh]
加水分解している割合$h$は非常に小さく,\ $1-h\kinzi1$と近似できる. \\[.5zh]
第一電離が完了した点が第一中和点で,\ \ce{G^{\pm}}\,の濃度が最大になるから,\ \bm{第一中和点は等電点に等しい.} \\[.2zh]
第一中和点までの2倍の\ce{NaOH}水溶液を滴下すると,\ 第二電離が完了する(第二中和点). \\[1zh]
\bm{弱酸と強塩基からなる正塩は,\ 水溶液中で加水分解して塩基性を示す.} \\[.2zh]
このときの\text{pH}の求め方は理論化学で学習済みなので,\ 簡単な解説に留める. \\[.2zh]
加水分解度をhとして平衡時の各イオンのモル濃度を求め,\ 平衡定数の式を作る. \\[.2zh]
一般に,\ 加水分解はほとんど起こらないため,\ 1-h\kinzi1と近似できる. \\[.2zh]
さらに,\ \bm{K_{\textbf h}\,をK_2\,とK_{\textbf w}\,で表せる}ことが重要である.
なお,\ \ce{NaOH}の滴下によって体積が3倍になったことで,\ \bm{モル濃度は\,\bunsuu13}\,になっている.
酸性アミノ酸であるグルタミン酸の陽イオン,\ 中性イオン,\ 1価陰イオン,\ 2価陰イオン \\[.2zh]
\hspace{.5zw}を$\ce{Glu+},\ \ce{Glu}^{\pm},\ \ce{Glu-},\ \ce{Glu^2-}$と表すと,\ 水溶液中での電離平衡は以下となる. \\[.8zh]
\hspace{.5zw} $\ce{Glu+ <=>[K_1] Glu^{\pm} + H+}$ ($K_1=8.0\times10^{-3}$\,mol/L) \\[.5zh]
\hspace{.5zw} $\ce{Glu^{\pm} <=>[K_2] Glu- + H+}$ ($K_2=9.0\times10^{-5}$\,mol/L) \\[.5zh]
\hspace{.5zw} $\ce{Glu- <=>[K_3] Glu^2- + H+}$\ \ \ ($K_3=3.0\times10^{-10}$\,mol/L) \\[1zh]
\hspace{.5zw}グルタミン酸の等電点を求めよ. $\log_{10}2=0.30,\ \log_{10}3=0.48$ \\
等電点は酸性側にあり,\ また,\ $K_2\gg K_3$より,\ \ 第三電離は無視できる. \\[1zh]
2価陰イオン\ce{Glu^2-}を無視すると,\ 後は中性アミノ酸と同様である. \\[1zh]
\text{pH}=3.1のとき,\ [\,\ce{H+}]=10^{-3.1}\,である.
[\,\ce{Glu-}]に対する[\,\ce{Glu^2-}]の割合は有効数字に影響しないほど小さく,\ 近似は適切であった