相加平均と相乗平均の大小関係の最大最小問題への応用、落とし穴と限界

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これらは,\ 全ての正の実数$a,\ b,\ c$に対して絶対的に成立する絶対不等式の1つである. a+b}{2},\ a+b+c}{3}\,を相加平均},\ √{ab},\ √[3]{abc}\,を相乗平均}という. √[3]{abc}\,を「3乗根abc」といい,\ 3乗してabcになる数を表す(後に詳しく学習).  \rei\ \ √[3]{8}=2 相加平均と相乗平均の大小関係は,\ 常に(相加平均)≧(相乗平均)}であるという主張である. ただし,\ 前提条件}があることに注意しなければならない. 参考書によっては,\ a+b≧2√{ab}\,の前提条件が\ a≧0,\ b≧0\ となっている. この不等式は,\ a=0またはb=0の場合も成り立つからである. もちろん,\ a=b=0の場合も0≧0となり成立する. ≧ は\dot{ま}\dot{た}\dot{は}=」を意味するから,\ 0≧0は正しい不等式である. ただし,\ a=0またはb=0のときはab=0となってしまい,\ 相乗平均√{ab}\,が意味を持たなくなる. そこで,\ 多くの場合はa>0,\ b>0としているのである. 適用範囲が広まるので,\ 実用上はa≧0,\ b≧0と考えておくとよい. 証明は容易で,\ 差をとるだけである.\ 3文字の場合の証明は別項で示す. a+b-2√{ab}=(√ a\,)^2-2√{ab}+(√ b\,)^2=(√ a-√ b\,)^2≧0 }\ \ √ a-√ b=0,\ つまりa=bのときに等号が成立する.  絶対不等式は{不等式の証明問題や最大・最小問題で利用できる.  しかし,\ 特に最大・最小問題においてその利用に落とし穴・限界がある.  この部分の認識が不足していると,\ 試験で思わぬ失点をすることになる.  以下で実際の問題を通して確認する. き,\ x+1x≧2\ が成り立つことを証明せよ.$ x+1x\ の最小値を求めよであるから$     $(相加平均)≧(相乗平均)}より  a=x,\ b=1x\,として,\ 公式a+b≧2√{ab}\,を利用すればよい. ただし,\ 必ず最初に公式の適用条件a>0,\ b>0を確認する}ことを忘れてはならない. 高校数学における多くの公式・定理では,\ 適用条件の記述なく利用すると減点は避けられない. 公式自体が差を計算して証明できるから,\ 公式適用で証明できるならば差を計算しても証明できる.  x+1x-2=x^2-2x+1}{x}=(x-1)^2}{x}≧0 a=x,\ b=1x\,として公式利用しているので,\ 等号成立条件a=bはx=1x\,である. x=1x\ より\ \ x^2=1   よって,\ x>0も考慮すると x=1 \end{array\right]$ \\  さて,\ 等号成立条件の確認が必要か否かが(1)と(2)の違いである.  (1)は,\ 「2以上」を示せという問題で「2以上」を示せたので,\ これで十分である.  しかし,\ (2)は「2以上」を示すだけでは不十分である.  「2以上」は「最小値2」をも意味するわけではないからである.  例えば,\ 最小値が100であったとしても,\ それは「2以上」である.  これが絶対不等式を利用して最大・最小を求めるときの落とし穴である.  「2以上($≧2$)」から「最小値2」を確定させるには,\ $=2}$になりうることを示す必要がある.  等号を成立させる実数$x$が1個でも存在していれば,\ $=2$になりうることになる.  つまり,\ $「x+1x≧2\ \dot{か}\dot{つ}\ x+1x=2\ となる実数xが存在する」\ →\ 「最小値2」である.$  結局,\ 絶対不等式で最大・最小を求める場合,\ 等号成立条件の確認が必須である.  等号成立の確認なく最小値2と答えると0点にされると思っておいたほうがよいだろう.  単に不等式を証明するだけの問題では,\ 指示されない限り等号成立条件を調べる必要はない. \ y=x+1x\ のとりうる値の範囲を求めよ.     $(相加平均)≧(相乗平均)}より x+1x≧2√{x・1x=2$ $x=1x}\ かつ\ x>0,\ つまりx=1のとき等号が成立する.$ また,\ $y=x+1x$は$x>0$で連続であり,\ $lim{x\to∞}x+1x=∞$}である. \\ ∴ y=x+1x\,のとりうる値の範囲は\ \ y≧2}$} \\  分母をはらって整理すると $x^2-yx+1=0\ \ ・・・\,①$  $f(x)=x^2-yx+1$とおく. $x$の方程式①が少なくとも1つの正の実数解をもつような$y$の範囲を求めればよい.} [1]\ \ ①の判別式を$D$とすると $D=y^2-4≧0\ より y≦-\,2,\ 2≦ y$ [2]\ \ $f(x)$の軸について[.5zh] ∴\ \ [1]\,~\,[3]\,より y≧2}$} 「2以上」は,\ 「最小値2」や「最大値なし」をも意味するわけではない.} よって,\ 「2以上」だからといって直ちに「とりうる値の範囲がy≧2」とはできない. 実際のとりうる値の範囲が3≦ y≦4であったとしても,\ それは「2以上」である. 本問の場合,\ 「最小値2」は等号成立条件の確認で示せたが,\ それ以上は相加相乗では対応できない. 相加平均と相乗平均の大小関係の限界}がここにあり,\ 別法が必要になる. また,\,「最小値2」を示せたのも,\,たまたまそのときのx=1がx>0を満たしていたからにすぎない. よって,\ 例えば「x≧3の範囲での最小値」となると,\ これも相加相乗では求められなくなる. 本問の場合,\ 数III}の極限を利用すると簡潔にとりうる値の範囲が求められる. yが\,∞\ (無限大)までいくことを示すことにより,\ 「最大値なし」を示すことができる. ただし,\ 「最小値2」かつ「最大値なし」でもまだ「とりうる値の範囲がy≧2」とはできない. 実際のとりうる値の範囲が2≦ y≦3,\ 4≦ yかもしれないからである. 「yが2以上の\dot{す}\dot{べ}\dot{て}の値をとる」}ことを示してはじめて「とりうる値の範囲がy≧2」とできる. 連続関数(途中で途切れていない関数)であれば,\ 最小値2から\,∞\,までのすべての値をとるといえる. 実際には整式や分数式が連続関数であることは自明としてよく,\ 一言断っておけば十分である. 数II}までの範囲内で求めるには,\ 逆像法}(後に学習)の考え方が必要になる(別解). x>0なるxの値に対応してyの値が定まる. 逆に考えると,\ 求める範囲内のyの値には必ず対応する実数x\ (x>0)の値が存在する}はずである. そこで,\ xの方程式とみてこれが実数解をもつようなyの範囲を求める}ことになる. xに範囲がなければ判別式で一発だが,\ x>0なので解の存在範囲の問題(数 I)に帰着する. この問題は,\ 判別式と軸と区間の端のy座標に着目するのであった. 常にを考慮すると,\ D≧0と(軸)}が条件となる. $x≧0のとき,\ x^2+1\ の最小値を求めよ.$相加相乗の利用にはさらなる限界がある.\ それを確認するため,\ まず誤答を示す.   $x^2≧0$であるから $(相加平均)≧(相乗平均)$より $x^2+1≧2√{x^2・1}=2x$   $x^2=1\ かつ\ x>0$,\ つまり$x=1$のときに等号が成立する.   $x=1$のとき$2x=2$であるから,\ $x^2+1$の最小値は2である.  なぜこれが誤答になるかは,\ 図形的意味を考える}と理解しやすい. \\  $y=x^2+1$が$y=2x$の上側にあるから,\ $x^2+1≧2x$自体が間違っているわけではない.  また,\ $x=1$のときに等号が成立する($x^2+1=2x$となる)ことも間違ってはいない.  しかし,\ 以上のことは$y=x^2+1}$の最小値とは全く関係が無い.  当然,\ $x^2+1\ (x≧0)}$の最小値は,\ $x=0}$のとき1}である.  等号を成立させる実数$x}$が存在していても,\ その時に最小となるとは限らないのである.  $x+1x≧2$も図形的に考えると,\ 最大・最小問題における相加相乗の有効範囲が見えてくる.  右辺が\.{定}\.{数なので,\ 等号成立時の$y}$座標と$x+1x}$の最小値が一致する.  結局,\ $a+b≧2√{ab$で最大・最小が求まるのは, 次の2パターンに限られる. $[1]\ \ 積abが定数になるとき,\ 和a+bの最\dot{小}値}が求まる.}$ $[2]\ \ 和a+bが定数になるとき,\ 積abの最\dot{大}値}が求まる.}$  このように,\ 最大・最小問題における相加相乗の有効範囲はかなり限定的である.  だからといって受験数学において利用機会が少ないわけではなく,\ むしろかなり多い.  問題作成者が相加相乗を利用できる問題をあえて作成するからである.  実際には様々な形式で出題されるので,\ 別項で演習する.