溶融塩電解(ナトリウムNa、アルミニウムAlの精錬)

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溶融塩電解 イオン化傾向の大きさがAl以上の金属の単体は, 水溶液を電気分解しても得られない. 金属よりも先に水溶液中のH₂Oが還元されて水素H₂が発生するだけになるからである. したがって, 結晶そのものを直接加熱融解した水がない状態で電気分解(溶融塩電解)して単体を得る. ナトリウムの精錬(塩化ナトリウムNaClの溶融塩電解) 陽極(炭素電極) 2Cl⁻ → Cl₂↑ + 2e⁻ 陰極(鉄電極) Na⁺ + e⁻ → Na (Naの単体が析出) アルミニウムの精錬(Al₂O₃(アルミナ)の溶融塩電解)(ホール・エルー法) 陽極(炭素電極) C + O²⁻ → CO + 2e⁻ C + 2O²⁻ → CO₂ + 4e⁻ (炭素電極が消費される) 陰極(炭素電極) Al³⁺ + 3e⁻ → Al (Alの単体が析出) Al₂O₃(アルミナ)の融点を下げるため, 氷晶石(Na₃AlF₆)を加える必要がある. 溶融塩電解は融解塩電解と呼ばれることもある. 原料はボーキサイト(主成分 Al₂O₃·nH₂O)で, 精製すると酸化物 Al₂O₃(アルミナ)が得られる. ボーキサイトからアルミナを得るまでの過程は無機化学で学習する. 理論化学では, アルミナの溶融塩電解によりAl単体を得る方法(ホール・エルー法)を学習する. アルミナは融点が非常に高い(2054℃)ので, 融点降下剤の氷晶石を加えて950℃で溶融塩電解する. これは凝固点降下(純物質よりも融点の低い物質を含んだ混合物の方が融点が低くなる)を利用している. 陽極では, 高温のために電極の炭素Cが酸化されてCOやCO₂が生成する. つまり, 陽極の炭素Cは消費されていくため, 絶えず補給する必要がある. Alの製造には莫大な電気エネルギーを要するため, 電気代が高い日本ではほとんど製造されない. 実際, Alの精錬(溶融塩電解)に必要な電気エネルギーは, 銅Cuの電解精錬よりもはるかに大きい. 必要な電圧は, Alの精錬では約4.0 V, Cuの電解精錬では約0.3 Vである. 単体1 gを得るのに必要な電気量[C]を求めると以下となる. 1 F = 9.65×10⁴ C/mol. Al³⁺ + 3e⁻ → Al, Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu より, 1 molのAlを得るには3 molのe⁻, 1 molのCuを得るには2 molのe⁻が流れる必要がある. Al = 27, Cu = 64 とすると, 単体1 gを得るのに必要な電気量は Al: (3F/27)[C], Cu: (2F/64)[C]. 軽金属であるAlは, Feなどの重金属に比べて融点が低く加工しやすい. それゆえ, 溶融塩電解のわずか3%のエネルギーでリサイクルできる利点がある. Alの単体は工業的にはボーキサイトから得られるAl₂O₃の溶融塩電解で製造される. まず, Al₂O₃に氷晶石Na₃AlF₆を加え, これを約950℃に加熱して融解させる. 溶融塩中に設置した2つの炭素電極間に電流を流すと, 陰極でAlが得られ, 陽極では一酸化炭素と二酸化炭素が発生する. F = 9.65×10⁴ C/mol, C = 12, O = 16, Al = 27 (1) Alの単体がAl³⁺を含む水溶液の電気分解で得られないのは, Al³⁺が還元される前に水が還元されて水素が発生するため. (2) 陽極 C + O²⁻ → CO + 2e⁻, C + 2O²⁻ → CO₂ + 4e⁻ 陰極 Al³⁺ + 3e⁻ → Al (3) 流れた電子e⁻の物質量=(1.93×10³ A × 3.6×10⁴ s) / (9.65×10⁴ C/mol) = 7.2×10² mol 3 molのe⁻で1 molのAlが析出 → 得られるAl = 27 g/mol × (7.2×10² × 1/3) mol = 6.48×10³ g ≈ 6.5 kg (4) 発生したCOとCO₂の物質量をx, y molとすると x:y = 1:2. 電子総量 7.2×10² mol → 2x + 4y = 7.2×10² x = 72 mol, y = 144 mol 減少したCの物質量=x + y = 216 mol → 12 g/mol × 216 = 2.59×10³ g ≈ 2.5 kg (5) 3 molのe⁻で1 molのAlが析出する. 1.0 kgのAlの製造に必要なe⁻の物質量=(1000 g / 27 g/mol) × 3 = 111 mol 必要電気エネルギー=(9.65×10⁴ C/mol × 111 mol) × 4.5 V = 4.8×10⁷ J ≈ 4.8×10⁴ kJ (6) 得られるAlの物質量=2700 g / 27 g/mol = 100 mol 1 molのAl₂O₃(式量102)から2 molのAlが得られる → Al₂O₃ = 50 mol Al₂O₃質量=102 × 50 = 5100 g = 5.1 kg 含有率=5.1 / 10 = 0.51 = 51 % 補足 ・電気量Q[C] = 電流I[A] × 時間t[s] ・陰極で得られるAlの物質量は電子物質量の1/3. ・陽極反応: C + O²⁻ → CO + 2e⁻, C + 2O²⁻ → CO₂ + 4e⁻. x molのCO発生で2x mol e⁻, x mol C消費. y molのCO₂発生で4y mol e⁻, y mol C消費. 流れたe⁻の総量=2x+4y mol, 消費Cの物質量=x+y mol.

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